中音域で絶妙にグルーヴさせるトランペッター伊勢秀一郎,逝く
- 2024年07月19日
- NEWS
絶妙にシンコペートさせた中音域を,これほど巧妙にグルーヴさせ歌いあげられる日本人トランペッターをほかに知らない。晩年はより音数少なく神妙なラインによって,奥底に潜む自身の魂と交信するような訥々としたサブトーンを主体とした。出身地・宮城の自然や文化,心通わす友と触れ合うがごとき,自身のドラムレス・トリオでの“音の詩人”ぶりは壮挙であり,定席ビッグバンドで若手とやる恒例のトランペット・バトルは,最期まで舞台のクライマックスを示した。
そんな伊勢秀一郎は一昨年がんが発覚し,抗がん治療を受けながら演奏活動を続けていた。しかし今年5月に容態が悪化し再入院となり,去る7月1日,膵臓がんのため自宅近くの病院で逝去した。
1955年,宮城県石巻市生まれ。中学2年の時にラジオ番組「ナベサダとジャズ」を聴いてジャズの虜に。75年上京。憧れのマイルス・デイビスにならって,20歳で初めてトランペットを手に。78年にプロ活動を開始し,高橋達也クインテット,バイソン片山バンド,松岡直也バンドで活動したほか,高橋達也や大儀見元,角田健一,内堀勝,野口久和,松尾明,宮間利之たちが率いるジャズ〜ラテン系の主要ラージバンドで重用された。またハンク・ジョーンズ,サリナ・ジョーンズ,デビッド・サンボーン,デビッド・マシューズ,ジミー・スコットたちとも共演。2000年6月には《JVCジャズ・フェスティバル・イン・ニューヨーク》にも出演した。飯田ジャズスクールでは長年,ビッグバンドの指導にあたってきた。(重森洋志)