新宿ピットイン60周年記念コンサート 伝説の原点から未来へ 継承されるジャズの意志と新時代の鼓動
- 2026年02月24日
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※2日目のトップ、大友のスペシャル・ビッグバンドでは1曲目に山下洋輔が客演。撮影:土居正則
1965年の創業以来、日本のジャズシーンを牽引し続けた「新宿ピットイン」が60周年を迎えた。2025年12月、新宿文化センターで開催された記念コンサートには、渡辺貞夫、山下洋輔ら重鎮から石若駿ら新世代まで総勢80名が集結。二代目オーナー・佐藤良雅への継承と「朝の部」復活も発表され、単に伝統を引き継ぐだけに留まらない強固な意志が示された。13時間に及ぶ熱狂の初日を中心に、この祝福すべきジャズの祭典を詳報する。
取材/文:上原基章
取材協力:新宿ピットイン/ピットインミュージック
「新宿ピットインの60周年に当たって、渡辺貞夫さん、日野皓正さん、山下洋輔さん。この3人の名前を挙げさせてください」
2025年12月27,28日の2日間、新宿文化センター大ホールで開催された記念コンサート初日、創業者にして初代オーナーの佐藤良武は冒頭挨拶の第一声でエピソードを話し始めた。このコンサートで一旦休養に入る山下のエピソードが聴衆の心に届く。1969年2月1日にピットインで行われたリハーサル時、山下と森山威男がフリーでバトルし始めた瞬間が山下洋輔トリオの原点となったこと。渡辺貞夫の仲介で納品された初代グランドピアノを入れ替える時、山下がピットインの歴史が刻み込まれたそのピアノを自宅に引き取ったこと。創立50周年時の対談で山下が「ピットインは自分にとって“実家”のようなものだ」と語ったこと。そして創業者として「これからもアーティストにとって“実家”と思ってもらえるよう、100周年を目標としてやっていきたい」という決意表明を行い、続けて「ピットインの新たな時代」を創り出していく為に二代目オーナーに就任した実子の良雅を紹介する。良雅は先ず2026年の4月から30数年ぶりに若手や実験の場としての「朝の部」のステージを復活させることを発表した。本誌連載「ピットイン60年史」でも記したように、1965年の創業以来守り通してきた“ピットインは演奏する「場」を提供し、ステージのパフォーマンスはミュージシャンに委ねる”という基本姿勢を今後も堅持していくことを力強く宣言した。こうしてピットイン60年目の「祝祭空間」のステージは幕を開けた––。
今回の「新宿ピットイン60周年記念コンサート」は、2日間の公演で延べ13時間12ユニット80名余のミュージシャンが参加した。1985年12月の20周年記念コンサートから継続して参加したのは渡辺貞夫、山下洋輔、日野皓正(今回はプロデューサーとして)、佐藤允彦、渋谷毅、森山威男、板橋文夫、峰厚介といった錚々たる面々。そして今回の節目でピットインは単なる祝い事だけでなく、この国のジャズ・シーンに「世代交代」というテーマを提示した。初日のトップバッターを務めたのは石若駿のユニット「Answer to Remember」。現在33歳の石若はジャンルを超越してツアーやレコーディングを飛び回る日本一多忙なドラマーだが、「実験の場」としてのピットインに強いこだわりを持っていて、ここ数年は3デイズ昼夜計6公演という大胆な企画を続けている。50周年記念コンサートでは日野皓正グループの一員として出演した石若だが、自身のグループでの参加は今回が初。その意気込みを示すようにパワフルなドラムソロから始まったステージは、固定的なジャズの「概念」に収まりきらない音空間だった。リズム、ハーモニー、グルーヴ、ラップ、ボイスetc.もしかしたら客席の年配ファンは「これがジャズ?」と戸惑っていたかもしれない。しかしマイルスも山下洋輔も「あんなのジャズじゃない!」という罵声を圧倒的なパフォーマンスで黙らせて来た。そう、この日石若たちが提示したパフォーマンスはジャズの「可能性」であり、さらに言えば、60周年コンサートを単に過去への「懐古」とするのではなく、初日のトップバッターを石若達に委ねることで次の10年の「未来」を音楽シーンに示したピットインならではの「意志表示」だと受け止めた。
ピットインが提示するジャズの「未来」が石若駿とすれば、次の10年間を牽引するリーダーは大友良英、菊地成孔、スガダイローの3人だろう。大友は山下洋輔が1970年代にトリオでヨーロッパを席巻した様に、年に何回も海外公演を行なっている。菊地は1993年に山下洋輔ニュートリオに参加以来、山下と故相倉久人を師としながら山下同様に演奏と並行して文筆活動でもファンを拡大している。スガダイローは山下の教えを受けるべく洗足大学ジャズコース一期生として入学、往年の山下のパワフルかつ繊細なピアノ奏法を受け継いでいる。今回のレポートでは、山下DNAを引き継ぐ3人がそれぞれ光を放ったことをしっかりと書き記しておきたい。

※アンコールではピアノの小野塚晃とのデュオでステージに登場。撮影:上原基章