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A Jazz Legacy Celebrating!100 Years of Oscar Peterson オスカー・ピーターソン生誕100周年 鍵盤の皇帝,その足跡と名盤を辿る

2025年,鍵盤の皇帝オスカー・ピーターソンが生誕100周年を迎えた。比類なき技巧とスウィング感で世界を魅了した彼の演奏は,いま再び日本のジャズ・シーンで新たな注目を集めている。正統でありながら斬新,明快でありながら深淵——。成熟した耳をもつリスナーにこそふさわしい,名盤・レア盤セレクションと共にピーターソンの本質へと迫る。

文:小針俊郎

日本におけるオスカー・ピーターソン評価の成熟

ラグタイムやストライドの時代以来,無数の優れたピアニストを輩出してきたジャズ界において,演奏家,作曲家として大成功し世界的な称賛に包まれる人生を送った人物がオスカー・ピーターソンだ。日本へも1954年JATPの一員として来日して以来,数えきれないほど国内公演を行っている。私は1964年にレイ・ブラウン,エド・シグペンを帯同したトリオから聴いてきたが,都度圧倒的なテクニックとスウィングに聴き惚れたものだ。つまり世界中にいるピーターソン・ファンの一人になったのだが,どうした訳か我が国のジャズ界には,彼のファンであると公言することが憚られるような空気があった。ジャズ界というより,ジャズ・ジャーナリズムではといったほうが正しいかもしれない。
長く日本のジャズ論壇の中心部分を占めていたのはマイルス・デイビスでありジョン・コルトレーンだった。或いはビル・エバンスである。この空気のなかでピーターソンは余りにも正統的な伝統派とみられていた。卓越したテクニックと斬新な和声感覚でジャズ界に君臨したアート・テイタム直系という筋目の良さ故に,日本のジャズ論壇では軽視されたのだ。その心理は解りやすく明朗なものへの反発だった。つまり難解で晦渋なジャズほど高尚であるとする嗤うべき風潮である。
しかし今は昔,日本のジャズ・ファンは往時よりも遥かに成熟した。私が付き合う若いピアニストもこぞってピーターソンを尊敬している。彼らにはピーターソンの屈託のない明快なジャズを等閑視する傾向は微塵もない。優れたものを素直に受け止めている。然ればこそ生誕100周年を迎えたまさに今,オスカー・ピーターソンの真価が正しく評価される時代がきたと私には思えるのだ。

(中略)

耳の超えたファンに聞いてもらいたいピーターソン作品
〜オスカー・ピーターソン生誕100年!名盤・レア盤UHQCDセレクションから

『テンダリー』(Verve)1950年3月ニューヨーク録音
本作以前にピーターソンは1945年から49年の間に9回のレコーディングを行っているが,49年9月のカーネギー・ホールにおけるJATPデビュー以外はすべてモントリオール録音。本作が米国における最初のスタジオ録音である。レイ・ブラウンとのデュエットでタイトル曲の他にその名も自作の「DEBUT」も含まれる。この曲を聴くと既にして2人のコンビネーションの素晴らしさに耳が奪われる。グランツの会心に笑みがみえるようだ。「テンダリー」は曲の美しさを華麗な装飾音を駆使して表現し,インテンポしてからはブラウンと息を合わせる。最後はルバートしてロマンティックな気分で締めくくる。二人の長い共演歴の始まりを記念する作品。

●生誕100年!名盤・レア盤UHQCDセレクション
https://www.universal-music.co.jp/oscar-peterson/