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特集:ハイエンドオーディオ再考 ジャズで探るハイエンドプリメインアンプの真価 エソテリック F-01/F-02が描き出す音世界に浸る


※エソテリック試聴ルームにてF-01とF-02の音を聴き比べる山本氏

日本が誇るハイエンドオーディオ・ブランド,エソテリックの高級プリメインアンプ「F-01」と「F-02」の真価を知るべく,ジャズ音源をCDと高音質ストリーミングサービスQobuzで徹底試聴,その鮮度が高く,緻密で力強い音世界をオーディオ評論家,山本浩司氏が体験レポート。創業から現在に至るエソテリックの歩みを紐解きながら,両モデルの技術的特徴,そしてジャズ・リスニングにおける印象など,エソテリックが描く音の実像に迫ってみたい。

【この取材の模様を「オーディオ伝道師 海苔屋のマッシー」YouTubeチャンネルで見ることができます】

▼本気のオーディオNo307 雑誌ジャズイン取材同行第5弾! オーディオ評論家・山本浩司さんとエソテリックを聴くESOTERIC F-01 F-02(9分動画)

文:山本浩司
Photo by Shinichi Takahashi

ハイエンドオーディオの深淵に足を踏み入れたい方に

日本を代表するハイエンドオーディオ・ブランド「エソテリック」の高級プリメインアンプF-01とF-02で,さまざまなジャズをCDと高音質ストリーミングサービスQobuzで聴いてみた。現代ハイエンドシーンの先頭を走るエソテリックのアンプならではと思える鮮度の高い,緻密で力強い音を聴くことができ,大いに満足した次第。ここではそのリスニングリポートをお届けしよう。
エソテリックというブランド名の意味を調べてみると,「秘教的な」,「奥義に達した」などという文言が出てくる。なるほど,オーディオの深淵に足を踏み入れたいというマニアにとってじつに興味深いブランド名なわけだが,英語ネイティヴの人たちにとってどんな響きを持った言葉なのか,一度聞いてみたい気もする。
エソテリックのスタートは1987年。TEAC(ティアック)の高級オーディオ・ブランドとして誕生した。TEACは録音機器や光ディスクプレーヤー等で実績を積んできたオーディオメーカーで,エソテリックも当初から高級CDプレーヤー関連に注目すべき製品を生み出してきた。創立間もない頃に登場したターンテーブルメカニズム「VRDS」を組み込んだCDプレーヤーP-1の彫りの深いサウンドが個人的には思い出深いが,その後エソテリックはアンプやネットワークオーディオ関連製品を発表し,総合高級オーディオ・エレクトロニクス・ブランドとして大きく成長することになる。
では,F-01とF-02の概要について述べよう。両モデルは,同ブランドのフラグシップ・セパレートアンプGrandiosoエディション開発で得られた知見と技術をふんだんに盛り込んだ一体型。シルバー仕上げの剛性感に満ちた,エソテリックらしいマッシブなデザインは両モデル共通していて,見た目は天板のグリルの色以外、まったく変わらない。違いは出力段にあり,F-01は歪みの少ないA級増幅(30W+30W/8Ω)で,F-02は高出力が得られるAB級増幅(120W+120W/8Ω)だ。電源回路は超本格的で,ともにセパレートアンプ並の940VAの大容量トランスを積み,整流回路からは全段デュアルモノラル構成としている。
また,F-01とF-02の注目すべきポイントはプリアンプ部で,回路はフルバランス・デュアルモノラル構成。同社独自のES-LINKアナログ入力(後述)を3系統装備し,同社K/NシリーズのSACD/CDプレーヤーと電流伝送接続することで,いっそうの高音質化が図れる仕様だ。ボリュームには精密な固定抵抗切替え式アッテネーターが用いられている。フォノ入力はMM/MCカートリッジ両方に対応するほか,L/R独立型ヘッドフォンアンプを搭載し,XLRバランス(4ピン)とアンバランス(6.3mm)2系統のヘッドホン出力を有している。

試聴:ジャズ音源で聴き比べると際立つF-01とF-02の個性

東京都多摩市にあるエソテリック試聴室でF-01とF-02をテストした。スピーカーはB&W800D3だ。SACD/CDプレーヤーにK-01XDSEを用いて,まず通常のXLRバランス接続でウィリアムズ浩子のCD『タイム・フォー・バラッズ』を聴いた。ロスアンジェルス録音の本作は,グラミー賞を何度も獲っているアラン・ブロードベントがピアノを弾いたアルバムで,彼女のたおやかな美しい声がとてもナチュラルな響きで捉えられている。
F-01で聴くと,ふっくらと柔らかい質感でヴォーカルが真に迫った感じで再現され,彼女のジャズ・シンガーとしての魅力が生々しく伝わってくる。このアルバム,何度も聴いているが,F-01はこれまで感じなかった大人びた風情を醸し出し,うっとりと聴き惚れてしまった次第。いっぽうのF-02は彼女のヴォーカルをよりキリッとした表情で描写した。より若々しいサウンドに聞こえ,バックの演奏もより清新は印象となる。F-01,F-02ともに鮮度感の高い,緻密で力強い音なのだが,微妙な個性の違いを感じさせるのが面白い。この曲でどちらが好ましかったかと問われたら,ぼくはF-01と答えるだろう。
次にCDでジョン・ゾーンの『ニュー・マサダ・カルテット』を聴く。現代最先端のフリージャズだが,とても鮮明なサウンドで彼らのヴィヴィッドな演奏が捉えられていて,ぼくの近年の愛聴盤だ。F-01とF-02の音を聴き比べてみると,より音が生々しくキレよく迫ってくるのはAB級増幅のF-02だった。痙攣するようなゾーンのスリリングなアルトサックスとフリーキーに切れ込んでくるジュリアン・ラージのギターの対比がF-01以上にくっきりと描かれる印象。ドラムズとベースの重量感,疾走感もF-02のほうがより好ましい。


※A級インテグレーテッドアンプ F-01。フルバランス・デュアルモノ構成のプリアンプ部や,パワーアンプ部の回路設計思想などGrandioso「X」エディション・セパレートアンプの開発成果を投入した最高峰プリメイン


※AB級インテグレーテッドアンプ F-02。こちらもGrandioso C1X直系となるフルバランス・デュアルモノ構成のプリアンプ部を持ち,F-01との違いは出力段で,F-01はA級増幅(30W+30W/8Ω)であるのに対し,F-02は高出力が得られるAB級増幅となる

●F-01/F-02仕様(機種名の表記がない仕様はF-01/F-02共通)
【スピーカー出力】
定格出力:
[F-01]30W + 30W(8Ω),60W + 60W(4Ω)
[F-02]120W + 120W(8Ω),240W + 240W(4Ω)
適合最小インピーダンス:4Ω
スピーカー出力端子:1系統(L/R)

【アナログ音声入力】
ESL-A/XLR端子:3系統
入力インピーダンス:10kΩ(XLR)
RCA端子:3系統
入力インピーダンス:10kΩ
PHONO端子:1系統(MM/MC切り替え)
入力インピーダンス:MM 47kΩ,MC 100Ω

【アナログ音声出力】
ESL-A端子:1系統
XLR端子:1系統
出力インピーダンス:100Ω

【ヘッドホン出力】
6.3mmステレオ標準ジャック:1系統
4ピンXLRジャック:1系統
実用最大出力
  アンバランス出力:300mW + 300mW(32Ω負荷)
  バランス出力  :600mW + 600mW(32Ω負荷)
適合負荷インピーダンス
  アンバランス出力:16〜600Ω
  バランス出力  :32〜600Ω

【外部コントロール】
RS-232C:1
トリガー入力(TRIGGER IN):1(3.5mmモノラルミニジャック)
トリガー出力(TRIGGER OUT):1(3.5mmモノラルミニジャック)

【総合】
電源:AC 100V、50/60Hz
消費電力:
[F-01]250W(電気用品安全法),215W(無信号時)
スタンバイ時:0.3W(RC-232C設定OFF時),0.6W(RC-232C設定ON時)
[F-02]280W(電気用品安全法),110W(無信号時)
スタンバイ時:0.3W(RC-232C設定OFF時),0.6W(RC-232C設定ON時)
外形寸法(W×H×D):445 × 191 × 471mm(突起部含む)
質量:[F-01]32.2kg[F-02]32.4kg
メーカー希望小売価格:[F-01]1,980,000円(税込) [F-02]1,870,000円(税込)