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「Jazz From Poland in Japan」開催!ECMも注目するポーランド・ジャズその現在地を知る


※「Jazz From Poland in Japan」メインビジュアル

9月,ポーランドから20名以上の精鋭ミュージシャンが来日し,大阪・関西万博と大阪・東京のライヴ・スポットで連日公演を行う前代未聞のプロジェクトが始動する。クシシュトフ・コメダに始まり,トマシュ・スタンコ,ミハウ・ウルヴァニャクへと続く伝統を継ぎながら,民主化以降,Yassムーヴメントを経て進化してきたポーランドのジャズ・シーン。その最前線を担う若き音楽家たちが集い,洗練された技巧と現代感覚で“いま”のジャズを鳴らす。ECMから注目のマチェイ・オバラやドミニク・ヴァニャ,女性ピアニストの気鋭や民謡ジャズ,EABSらによる最新鋭ビート,そして総出演者による世界初演の組曲まで――“知られざるジャズ大国”の全貌が,ここに姿を現す。

文:オラシオ

前代未聞の規模で展開される来日プロジェクト
――EXPOから都内ライヴハウスまで 最前線の音が日本を横断する10日間


※大阪・関西万博のポーランド・パビリオン

9月前半,ポーランドから総勢20名以上のミュージシャンが一挙来日し大阪万博や大阪&東京のライヴ・スポットで毎日演奏を繰り広げる,かつてない規模のジャズ・プロジェクトが開催される。万博では出展各国が様々なライヴを企画しているが,本プロジェクトに象徴されるようにポーランドは他を圧する「ジャズ推し」ぶり。

(中略)

本プロジェクトで来日するミュージシャンたちは20代~30代の若手世代が中心となっている。おしなべてハイレベルなクラシック教育を受けてきた音楽エリートばかりなのも現代ポーランド・ジャズの大きな個性の一つで,その高い演奏技術と作曲能力,若者のフレッシュな感性が捉えた多彩な音楽性にぜひ期待して欲しい。それぞれ個性的なジャズ・カルチャーを形成する各都市から代表的な奏者が集結するのも魅力だ。旬すぎてまだ情報があまり日本に届いていない,あるいは初来日のミュージシャンも多い。大阪や東京のヴェニューではそれぞれのアーティストがライヴを行い,ポーランド・パビリオンでは9/4~9/10までの毎日30分間,アコースティックライブを行う。日替わりカップリングのデュオやソロという構成も楽しい。

現在進行形のポーランド・ジャズ──伝統を継ぎ,越境し,更新する若き表現者たちの祝祭


※ドミニク・ヴァニャ(p)

今回来日するメンバーのうち,最も日本のファンの注目を集めるのはECMアーティストであるマチェイ・オバラとドミニク・ヴァニャだろう。本稿執筆時点で,オバラはECMから自身のクァルテット名義のアルバムを3作リリースしている。そのサウンドは冷気と熱気が絶妙にブレンドされ高い構築性も併せ持つシリアスなインプロヴィゼーションで,コメダやスタンコのスピリッツを最も色濃く受け継いだ音楽家だと言っていい。またノルウェーを代表するリズム・セクション(オーレ・モルテン・ボーゲン&ガード・ニルセン)との十数年以上に及ぶ,国境を越えたコラボレーションとしても興味深い。


※オバラ・クァルテット ©Jacek Poremba

そのオバラ・クァルテットでもピアノを弾くヴァニャは,ECMからソロ・ピアノ作品(「Lonely Shadows」)をリリースした唯一のポーランド人ピアニスト。キャリアで特筆すべきはもう一点,ポーランド出身で映画音楽の大作曲家ズビグニェフ・プレイスネルが彼のために書き下ろした独奏ピアノ曲集「Twilight」だ。優れたポスト・クラシカル・コンポーザーでもあるプレイスネルの作品とECMイズムを両立させ,さらにポーランドの強者たちのプロジェクトで数多のハードなインプロヴィゼーションも生み出してきたこの稀有なピアニストは,オバラ・クァルテットとソロの両方で演奏するぜいたくなプログラムとなっている。
リリカルで構築性の高いヨーロッパ的ジャズ・ピアニズムに関心を寄せるファンにオススメなのはアガ・デルラクとカシャ・ピェチコの両ピアニスト。デルラクはポーランド版グラミー賞と言われる権威ある音楽アワード「フリデリク」を何度も受賞。ピェチコは1950年代から続く伝統あるPolish Jazzシリーズでリーダー作をリリースした初めての女性アーティスト。ともにフロントランナーとなっている彼女らの演奏を通して,ポーランドのジャズ・クオリティのハイレベルぶりをまざまざと感じられるはず。デルラクはトリオ,ピェチコは若手の才能あふれるアルト・サックス奏者マチェイ・コンジェラと新たに結成したデュオSub Silentoによる演奏を披露する。


※バブーシュキ カロリナ・ベイムチク(vo)とダナ・ビンニツカ(vo)

ポーランド出身のカロリナ・ベイムチクとウクライナ出身のダナ・ビンニツカが結成し,互いの祖国の民謡を演奏する「バブーシュキ」もまたポーランドのジャズのある側面を象徴する要注目ユニットだ。この国では民謡などの伝統音楽やクリスマス・キャロルを現代の感性でカヴァーしたりインスパイアされたりした「民謡ジャズ」とでも言うべき独自のジャンルが発展してきた。ポップとクリエイティヴを兼ね備えた編曲センスのすばらしさ,二人のヴォーカルが生み出す美しいハーモニーも含め,彼女らはこの国の民謡ジャズ・カルチャーの最良のエッセンスを伝えてくれる。


※エアブス(EABS)©Zuza_Gąsiorowska

南西部の大都市ヴロツワフである種の「ムーヴメント」と化しているのがジャズ・コレクティヴEABS。ヒップホップやエレクトロニカの要素をベースに,コメダやスタンコ,サン・ラなどレジェンドの音楽を大胆に再構築したミクスチャー・ジャズ作品を続々とリリース。またUKジャズの重要人物テンダーロニアスとのコラボレーションも重ねる彼らは,ポスト・ヒップホップ時代を経たポーランドの「最先端ジャズ」の代表格だ。
そのEABSのメンバーがバックアップするのが,女性ヴォーカリストのパウリナ・プシビシュのステージ。ネオソウル・アーティストとしてポーランドのポップ・ミュージックの中心的存在となっている彼女の出演は,「ジャズ・イベント」としての本プロジェクトのある種一番の目玉であり,事件だと言っていい。ポーランドではジャズ・ミュージシャンを起用してハイ・クオリティなサウンドをクリエイトするポップ・アーティストも次々と現れており,彼女はその代表格だ。
プシビシュとコラボした「Kwiateczki」をPolish Jazzシリーズからリリースし,気鋭のラッパーKozaとのヒップホップ作品も制作するアルト・サックス奏者クバ・ヴィエンツクもまた,この国のジャズの最先端を体現したアーティスト。今回来日するのは新ユニットHoshii。ユニット名は日本語の「欲しい」で,宇宙から地球にきた架空の存在が主人公というSF的コンセプトを持つ,不思議なタッチのエレクトロニック・ジャズだ。メンバーはいずれも売れっ子揃いで,今回リズム・セクションの二人はバブーシュキやアガ・デルラクのトリオでも演奏し,ピアノのグジェゴシュ・タルヴィドはプシビシュとのデュオも予定されている。
ヴァイオリンのレベルの異常な高さもポーランドのジャズ・シーンの特徴の一つだ。群雄割拠の中から頭角を現したのが北部の大都市グダンスク出身のトマシュ・ヒワ。10年以上合唱指揮を学んできた出自も持つ彼のクインテットが構築するジャズは,プログレのファンにもアピールするスケールの大きな曲展開とヘヴィ&ノイジーなサウンドが魅力。マゾレフスキやモジジェル,ハニャ・ラニなどのスターを生み出した街グダンスクの自由な気風が凝縮されたバンドでもあり,各メンバーのミクスチャーな活動もその音楽性を支えている。
最後にご紹介したいのがクラシックとジャズを融合する若きロールモデル,ニコラ・コウェジェイチク。オーケストラやストリング・セクションなど,特にクラシック音楽的フォーマットと共演するプロジェクトにおける,イマジネーションあふれる作編曲が高い評価を得ている天才だ。大阪・心斎橋のSpace14で世界初演される組曲は,今回来日するミュージシャン全員のために彼が特別に書き下ろした作品で,来日メンバーたちが同じステージで共演する唯一の機会でもある。彼自身の指揮によって披露されるその音楽はいったいどんなものになるのだろうか。

本誌ではポーランドジャズの現在を知る10枚のアルバムをストリーミング試聴のリンク付きで紹介しています

■Jazz From Poland in Japan 2025
●夢洲・大阪・関西万博「ポーランドパビリオン」公演
9/4(木)~10(水)=アガ・デルラク(p)/バブーシュキ/ドミニク・ヴァニャ(p)/エアブス/ホシー/マチェイ・オバラ(sax)カルテット/パウリナ・プシビシュ(vo)/サブ・シレント/トマシュ・ヒワ(vln)クインテット/ニコラ・コウォジェイチク(cond)
※毎日30分のアコースティックライブを開催
(予約不要,タイムスケジュールは会場にてご確認ください)

●大阪・梅田「Blue Yard」公演
9/4(木)サブ・シレント/バブーシュキ
9/5(金)アガ・デルラク(p)/ドミニク・ヴァニャ(p)
9/6(土)マチェイ・オバラ(sax)クァルテット

●大阪・心斎橋PARCO内「SPACE14」公演
9/7(日)午後:上記記載の全アーティスト
●大阪・梅田「CLUB QUATTRO」公演
9/9(月)トマシュ・ヒワ(vln)クインテット/エアブス
9/10(火)パウリナ・プシビシュ(vo)/Hoshii

●東京・新宿「Brooklyn Parlor」公演
9/11(木)エアブス

●東京・代官山「晴れたら空に豆まいて」公演
9/12(金)Hoshii

●東京・神田淡路町「cafe,Dining&Bar 104.5」公演
9/13(土)パウリナ・プシビシュ(vo)&グジェゴシュ・タルウィド(p)

https://jazzfrompoland.com/