ベルリンから東京へ── ヨーロッパを席巻するモーゼズ・ユーフィー・トリオ 初来日公演の熱狂【10月22日】
- 2025年11月07日
- LIVE REPORTS

※写真提供/COTTON CLUB 撮影/Makoto Ebi
東京・丸の内コットンクラブに,ベルリン発の若きジャズ・トリオ,モーゼズ・ユーフィー・トリオがやってきた。会場は満席,熱気が渦巻く中,ピアニストのモーゼズ・ユーフィー,ベーシストのロマン・クロベ=バランガ,ドラマーのノア・フュルブリンガーが登場。デビューアルバム『MYT』を携え,ジャズ,ヒップホップ,アフロビート,アートロックのエッセンスを自在に操る彼らの初公演は,期待を遥かに上回るものだった。
開演と同時に鳴り響いたのは「Push」。モーゼズの鍵盤がクールに滑り込み,ロマンのベースが低く唸る。ノアのドラムが炸裂すると,電子ビートと人間味ある揺らぎが融合。体の芯まで響く音圧に観客は一瞬で惹きこまれた。想像以上にダンサブルで,ハードグルーヴが会場全体を包み込む。「Minor Issues」では3人の緊密な対話が光る。フレーズの隙間に漂う緊張感,一気に解放される熱情。そのコントラストがたまらない。「Into You」では一転,メロウなムード。モーゼズのソロはリリカルで,まるでピアノが歌っているよう。MCではロマンが時差ボケを冗談交じりに語る場面もあったが,プレイは安定感抜群。「Bruk」ではヒップホップのビート感が強調され,ノアの人力ドラムンベースのようなスピード感に観客は圧倒された。「Gemini」はリズムの裏側にある静けさが印象的。ロマンのアルペジオが繊細に空間を操り,観客の呼吸さえ音楽の一部となる。「Bond」では3人のコンビネーションがさらに高密度に。複雑な構成の中に,魂の叫びのような即興が潜む。そして「Frank」。この曲ではベルリンのストリート感がそのまま音になったかのようだ。荒々しくも洗練された,矛盾を抱えた美しさがステージからほとばしる。「Till Tomorrow」はしなやかで,ジャズの叙情とドリームライクなスペーシーさが絶妙に絡み合う。モーゼズの鍵盤がまるで夜風のように流れ,観客は夢心地に。マンハイムのクラブが曲名の「7er」では再びリズムの嵐。ノアのスティックがシンバルを切り裂く。観客から「意味わかんないほど最高!」という声が漏れるほどの熱狂。ライブでしか味わえない圧倒的な瞬間だった。後半の山場「Ocean」では,2023年のEPからの人気曲が新たな息吹を得る。R&Bのスムースなメロディと緻密に組み上げられたグルーヴ。録音では聴こえない“生の揺らぎ”が美しい。ベルリンの空気を感じさせる高揚感に,客席はまるで海のように揺れた。ラストの「Show Me How」では3人の自由な即興が交錯。モーゼズの鍵盤が空間を遊び,ロマンのベースが絡み,ノアのドラムが加速する。汗だくの3人が笑顔を交わすたびに,ステージと客席の境界が消えていくようだった。
2020年の結成以来,昨年はドイツ・ジャズ・プライズのライブ・アクト・オブ・イヤーを受賞するなど,ヨーロッパの新世代ジャズを牽引してきたモーゼズ・ユーフィー・トリオ。その勢いのまま挑んだ今回の初来日公演は,彼らが我々の想像する“世界基準”を軽々と超えていることを証明するものだった。ジャズファンもヒップホップ好きも,誰もがこのトリオの音に恋焦がれること必至。今度はぜひ、彼らの故郷ベルリンでMYTのステージを体感してみたい。(落合真理)

モーゼズ・ユーフィー・トリオ
10月22日(水)@東京・丸の内「コットンクラブ」
■Setlist(2nd)
1. Push
2. Minor Issues
3. Into You
4. Bruk
5. Gemini
6. Bond
7. Frank
8. Till Tomorrow
9. 7er
10. Ocean
11. Show Me How
■Personnel
モーゼズ・ユーフィー(key),ロマン・クロベ=バランガ(b),ノア・フュルブリンガー(ds)