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CHIHIRO YAMANAKAジョビン音楽の光と影 20周年記念作品『Ooh-La-La』に刻まれた“生来のピアニスト”山中千尋の現在


©Keita Haginiwa

本邦ジャズ・ピアニストのトップランナーの一人である山中千尋が,メジャー・デビュー20周年を記念した新作『Ooh-La-La』をリリースした。ジョビンを含むブラジル音楽を中心に,彼女ならではの視点で名曲を再構築し,鉄壁のリズムセクションをバックに縦横無尽のプレイを披露,さらには童謡風のオリジナルでキャリア初のヴォーカルにも挑戦した。美しいメロディーとインプロヴィゼーションのスリル,そして遊び心が詰まった充実の最新作について,その思いをじっくりと語ってもらった。

インタビュー/文:高井信成

メジャー・デビュー20周年を記念した2枚組ベスト盤『Best 2005-2025』に続き,メジャー通算24枚目(オリジナルアルバムの数。ベスト盤などコンピレーション盤は除く)となる新作『Ooh-La-La』を発表した山中千尋。歳月をかさね,作品の枚数を増やすごとに,彼女の存在感はより大きくなり,さらに創作意欲がましているように感じる。新作の内容も安定したすばらしい充実感をみせている。

サウダージというブラジル音楽にある特徴的な感情

新作はボサノバをはじめとするブラジル音楽を中心にして,おなじみのピアノ・トリオで収録した。「私のキャリアが始まって以来,ずっと演奏してきた曲を録音しました。それらをまとめて取りあげたという感じでしょうか」と,山中は語っている。ボサノバ集というわけではないが,新作でも2曲収録したアントニオ・カルロス・ジョビンについて,彼女がどう思っているか興味があるので聞いた。

「ジョビンはバッハですね。彼が発明したボサノバという音楽の父。これだけ多くの名曲を生み出したところもバッハに似ている。”ブラジルのバッハ”といえるのではないでしょうか」

具体的にジョビンの音楽は,どんな特徴と魅力をもっているのだろう。

「全部の曲が違う魅力をもっている。テンションの連なりでできているのだけど,きれいな和音やビートがかさなっていく。
何よりも,メロディーが美しい。アドリブでもおなじ。最小の音で最大の表現ができる。サウダージというブラジル音楽にある特徴的な感情があるけれど,それを最大限に表現できる音楽家だと思いますね」

ジョビンの音楽の美しさは格別だ。和音のセンスやコード進行など,クラシック音楽から影響を受けているともいわれる。

「ジョビンの音楽を分析すると,美しい非和声音のかたまりですから,現代音楽,もしくは近代音楽に近い。ラヴェルやドビュッシーとか,そういう部類に入ると思います」

そんなジョビンの楽曲から,新作では<The Girl From Ipanema>と<Desafinado>を取りあげた。前者はハーモニーやリズムを変えて遊び心あふれるアレンジで演奏し,後者はボッサ,アップテンポ,サンバ,ドラム・ソロという変化に富む展開で楽しませてくれる。その他,セザル・カマルゴ・マリアーノのを軽妙洒脱な演奏で,ミルトン・ナシメントの<Vera Cruz >を疾走感あふれるパフォーマンスで聴かせる。そして,ハロルド・ロボの<Tristeza>はお祭り気分満載の楽しい演奏で盛り上がる。実際,山中は毎年参加する祭りのフィナーレでこの曲を演奏しているという。20周年を祝うような賑やかなナンバーである。


初回限定盤『Ooh-La-La』(Blue Note)
※本作のレビューは前号Vol.25に掲載


通常盤『Ooh-La-La』(Blue Note)

▼山中千尋 公式Instagram
https://www.instagram.com/chihiroyam/