CHIHIRO YAMANAKAジョビン音楽の光と影 20周年記念作品『Ooh-La-La』に刻まれた“生来のピアニスト”山中千尋の現在
- 2025年11月20日
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©Keita Haginiwa
本邦ジャズ・ピアニストのトップランナーの一人である山中千尋が,メジャー・デビュー20周年を記念した新作『Ooh-La-La』をリリースした。ジョビンを含むブラジル音楽を中心に,彼女ならではの視点で名曲を再構築し,鉄壁のリズムセクションをバックに縦横無尽のプレイを披露,さらには童謡風のオリジナルでキャリア初のヴォーカルにも挑戦した。美しいメロディーとインプロヴィゼーションのスリル,そして遊び心が詰まった充実の最新作について,その思いをじっくりと語ってもらった。
インタビュー/文:高井信成
メジャー・デビュー20周年を記念した2枚組ベスト盤『Best 2005-2025』に続き,メジャー通算24枚目(オリジナルアルバムの数。ベスト盤などコンピレーション盤は除く)となる新作『Ooh-La-La』を発表した山中千尋。歳月をかさね,作品の枚数を増やすごとに,彼女の存在感はより大きくなり,さらに創作意欲がましているように感じる。新作の内容も安定したすばらしい充実感をみせている。
サウダージというブラジル音楽にある特徴的な感情
新作はボサノバをはじめとするブラジル音楽を中心にして,おなじみのピアノ・トリオで収録した。「私のキャリアが始まって以来,ずっと演奏してきた曲を録音しました。それらをまとめて取りあげたという感じでしょうか」と,山中は語っている。ボサノバ集というわけではないが,新作でも2曲収録したアントニオ・カルロス・ジョビンについて,彼女がどう思っているか興味があるので聞いた。
「ジョビンはバッハですね。彼が発明したボサノバという音楽の父。これだけ多くの名曲を生み出したところもバッハに似ている。”ブラジルのバッハ”といえるのではないでしょうか」
具体的にジョビンの音楽は,どんな特徴と魅力をもっているのだろう。
「全部の曲が違う魅力をもっている。テンションの連なりでできているのだけど,きれいな和音やビートがかさなっていく。
何よりも,メロディーが美しい。アドリブでもおなじ。最小の音で最大の表現ができる。サウダージというブラジル音楽にある特徴的な感情があるけれど,それを最大限に表現できる音楽家だと思いますね」
ジョビンの音楽の美しさは格別だ。和音のセンスやコード進行など,クラシック音楽から影響を受けているともいわれる。
「ジョビンの音楽を分析すると,美しい非和声音のかたまりですから,現代音楽,もしくは近代音楽に近い。ラヴェルやドビュッシーとか,そういう部類に入ると思います」
そんなジョビンの楽曲から,新作では<The Girl From Ipanema>と<Desafinado>を取りあげた。前者はハーモニーやリズムを変えて遊び心あふれるアレンジで演奏し,後者はボッサ,アップテンポ,サンバ,ドラム・ソロという変化に富む展開で楽しませてくれる。その他,セザル・カマルゴ・マリアーノの

初回限定盤『Ooh-La-La』(Blue Note)
※本作のレビューは前号Vol.25に掲載

通常盤『Ooh-La-La』(Blue Note)
▼山中千尋 公式Instagram
https://www.instagram.com/chihiroyam/
