RAHSAAN ROLAND KIRK,BILL EVANS 熱狂とリリシズム 二極の美学ローランド・カーク,ビル・エバンス 未発表ライブ2作品
- 2025年12月18日
- PICKUP
ジャズ史に輝く未発表ライブ音源の発掘で知られるレゾナンス・レーベルから,対照的な魅力を持つ2つの作品が届けられた。鬼才ローランド・カークの熱狂的で破天荒なステージを捉えた1963年のニューヨーク公演と,ジャズ・ピアノのリリシズムを体現するビル・エバンスが新トリオでアグレッシブな一面を見せた1966年のシアトル公演。熱狂とリリシズム,二極の美学が未曾有の迫力で蘇る,ファン必聴の貴重な記録だ。
文:岡崎正通
素晴らしい未発表音源をリリースし続けている発掘プロデューサー,ゼブ・フェルドマンのレゾナンス・レーベルから,またまた聴き逃せないアルバム2点が直輸入盤仕様でリリースされることになった。まずはマルチ・リード・プレイヤーの鬼才ローランド・カークがニューヨークにあった名門クラブで繰りひろげた圧巻のライブ・ステージをとらえた「ヴァイブレーションズ・イン・ザ・ヴィレッジ:ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ゲイト」。ブリッカー・ストリートとトンプソン・ストリートが交差する角にあった“ヴィレッジ・ゲイト”は,当時のニューヨークを代表するスポットのひとつで,ソニー・ロリンズやジョン・コルトレーン,ホレス・シルバー,ハービー・マンをはじめとするトップ・プレイヤーたちが素晴らしいライブ・アルバムを吹き込んだことでも知られている。
そのステージにローランド・カークが登場したのは1963年秋のこと。いつも熱狂的なプレイを聴かせるカークであるものの,特に彼のライブは熱いものがあって,ここにはカークのステージの凄さがダイレクトに捉えられている。テナー・サックスだけでなく,複数のリード楽器を同時に吹き鳴らすカークのプレイは壮烈のひとこと。オープニング曲<ジャンプ・アップ・アンド・ダウン>から,早くもカークの魅力が全開!さまざまな管楽器を奔放に吹きながらダーティなトーンも繰り出し,ブルージーな香りをいっぱいに振りまいて暴れまくる。

『Vibrations in The Village:Live at The Village Gate/Rahsaan Roland Kirk』(Resonance)
▼Resonanceが製作した本作及び『Seek & Listen』に関するミニ・ドキュメントを見る
ビル・エバンスの『ポートレイツ・アット・ザ・ペントハウス:ライヴ・イン・シアトル』は66年5月にシアトルのクラブで録音されたもので,ベーシストのエディ・ゴメスが参加した直後の演奏であるのが注目される。ゴメスはジェリー・マリガンのバンドで演奏していたところをエバンスに気に入られてトリオに入り,シカゴで2週間のギグをこなしたばかりだった。“いままでレコードで聴いて親しんできたトリオのステージに自分が立っているというだけで緊張していた。ところが演奏が始まるとビルは,とても僕たちをサポートしてくれたんだ”とゴメスが当時を振り返っていた。以来ゴメスは11年にもわたってエバンスのパートナーをつとめることになる。ドラマーのジョー・ハントはジョージ・ラッセルのバンドなどで知られていたものの,彼もトリオに参加したばかり。ゴメス~ハントからなるトリオのアルバムは珍しく,その意味でもこれは貴重な一作といえよう。

『Portraits at The Penthouse:Live in Seattle/Bill Evans』(Resonance)
▼Resonanceが製作した本作に関するミニ・ドキュメントを見る