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<全文公開>ピアニスト,武本和大が壮大なスケールで紡ぐ超絶技巧と優しさが共存する稀有な音世界


※レコーディングメンバー左から飯島奏人(vc),末廣彩風(vla),西原史織(2nd vln),吉田篤貴(1st vln),武本和大(p),Ema(Vo),岡本健太(per),きたいくにと(ds),佐藤潤一(b)

井上陽介,塩谷哲,小曽根真,井上智,佐藤竹善,挾間美帆,池本茂貴など,シーンを牽引する音楽家から絶大な信頼を受けるピアニスト,武本和大が初のフルアルバムをリリースした。佐藤潤一,きたいくにとの「THE REAL」に吉田篤貴を含むストリングスカルテットとパーカッション,ヴォーカルを加えたカラフルでダイナミックなサウンドは,聴く者の心に優しく寄り添いながら鮮烈なストーリーを紡ぎ出す。

インタビュー/文:神野秀雄

武本和大の初フルアルバム『THE REAL Veleria “BIRTH”』は,国立音楽大学1年から続く佐藤潤一(b),きたいくにと(ds)との「THE REAL」にストリングカルテット<吉田篤貴,西原史織(vln),末廣彩風(vla),飯島奏人(vc)>とパーカッション岡本健太,ゲストにボーカルEmaを迎えた8人編成で鮮烈なストーリーをダイナミックに美しく奏でる。ではヴォーカルのEmaを迎え,生命の歓びを象徴する鮮烈な世界を描き出す。
武本は1995年生まれ,3歳からヤマハ音楽教室でエレクトーンを学び幅広い音楽に挑む。「ビッグバンドからの編曲ではバディ・リッチやミシェル・ルグランなどに取り組み,オケのスコアは小学生から読んでいました」。  中2から3年連続全国大会1位,国立音楽大学附属高校に進み,2013年高2でYECエレクトーン世界大会A部門1位に。「池田篤教授が高校へジャズ専修体験授業に来ました。それが楽しくてピアノのレッスンを希望したら塩谷さんを紹介されました。強くピアノを志したきっかけは,高3の2013年11月,紀尾井ホールでの塩谷哲20周年記念コンサートの後半,塩谷哲&小曽根真デュオに衝撃を受けたことです」。以前から塩谷,小曽根,オスカー・ピーターソン,チック・コリア,ファブリッツィオ・ボッソなどを聴いていた。ジャズ専修に進学,塩谷,宮本貴奈らに師事,首席で卒業後,井上陽介トリオに抜擢された。
エレクトーンから始めたことで「オーケストレーションで各楽器の音域と特性,イメージが掴め世界観が広がりました。コードネームを見て瞬時にヴォイシングできるのもよかった。人との繋がりもできました」。近い世代に岩城直也,井上薫,RINA,鈴木瑤子,秩父英里がいる。だがピアノへの移行は大変だった。
大学1年の文化祭「ジャズ喫茶」企画に佐藤潤一が武本ときたいくにとを誘いKKJトリオが誕生,後に神野三鈴と相談し「THE REAL」と改名。「音楽はリアルが大事で,飾らない等身大の自分を表現する」想いを込めた。「さっとん(佐藤)は数え切れないステージを共にし,そっと支えてくれる安心感があり,ここぞという瞬間に力強くプッシュしてくれる最も信頼できるベーシスト。くにとさんは音楽面でも人としても多くのアドバイスやサポートを頂き,独創的で個性溢れる繊細なプレイに新たな世界を感じます」。在学中にストリングスに関心を持ち小曽根真編曲『小曽根実/Lazy Dad』,塩谷,ビル・エバンス&クラウス・オガーマン,チック,ファヴィアン・アルマザンなどに影響を受けた。
「Veleriaはラテン語で航海や帆を意味するVela,輝きのAuriaから造りました」。ジャケットにもボトルシップに航海への意志を込め,Birthを象徴するたまごを中心に四季の色合いや陸海空の要素を散りばめ新たな生命や世界が生まれる様子を壮大に表現。ストリングスメンバーとの出会いは,大塚“GRECO”でオーナー大竹美好が,武本のリーダープロジェクトの想いを汲んで,ピアノandストリングスとのライブを企画し,西原と飯島を紹介,その後Grecoを通じて吉田と末廣と繋がった。岡本はきたいのリーダーグループで知り合い,そのプレイに完全に心を掴まれ,後日直接オファーをした。2023年5月渋谷JZ Bratで初ライヴを行う。
各曲がドラマチックで全体のストーリーもあり映画や絵画を観たような体験が味わえる。<Determination>は新たな世界へ進む決意。<A Place>は大変な時代の中で,誰かの心に寄り添える曲になれば…と思って作った曲。<Power of Believing>は自分を信じる力,音楽の持つ力を自分なりに表現した曲。<Departure>は出発には困難や壁があるが,自分を信じて進み新たな困難に向かうこと。<I Pray>は亡き祖母への祈りと感謝,そしてこれからの人生を歩むための決意を込めた。<On the Way>は夕暮れの家への帰り道に見た夕陽がとても美しく,その情景を描いた曲。<Birth>は何かが生まれる瞬間の感動をテーマにした曲。移り変わる情景の中にどこか懐かしさと新しさが共存し,最後には心を解き放つように全員が歌い上げる,一曲を通してこのメンバーでしか表現できない世界を描いた。どうしてもVoiceを入れたくて,真っ先に浮かんだのが尊敬してやまないボーカリストEma。「この人しかいない」と思いお願いしたところ,快く引き受けてくれ,圧巻の集中力で一発録りを成し遂げてくれた。
「各楽器が奏でて欲しいイメージが頭の中で自然と浮かび,自由さを求めながら,その音が自ずと鳴る感覚で書いています。ピアノが核として立ち上がる瞬間など全体を俯瞰して構成します。リハでのメンバーの反応や提案も大切にしています」
ライヴを重ね観客の反応も活かした。録音は日本で考え得る最高のエンジニア,ニラジ・カジャンチに依頼,憧れだったソニーミュージックAスタジオ(乃木坂)で最上の音に仕上げた。聴く者に優しく寄り添い,超絶技巧をそっと散りばめ,心を温めてくれる武本の音楽をぜひ体感したい。

THE REAL Veleriaライヴ予定
2026年2月9日(月) 丸の内コットンクラブ
武本和大(p),佐藤潤一(b),きたいくにと(ds),岡本健太(per)
吉田篤貴(1st vn),西原史織(2nd vn),末廣彩風(va),飯島奏人(vc),Ema(Vo)

▼武本和大Instagram
https://www.instagram.com/mottomottotakemotto1110/ 


『THE REAL Veleria “BIRTH”』(KZR Records)