ケイティ・ジョージがフル・オーケストラで臨んだ内なる感情の表現とその先にある“共生”
- 2025年12月18日
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若くして世界的な人気と評価を確立したカナダ人シンガー,ケイティ・ジョージが,自身のキャリアを懸けた意欲作『Caity Gyorgy with Strings』を発表した。40人編成のオーケストラを迎えた本作では,敢えて技巧的なスキャットを封印し,歌声のトーンと歌詞に込めた深い内面を緻密に表現。人生の大きな決断と葛藤の中で生まれた素直な感情を,ストリングスとの絶妙な調和によって,鮮やかに描き切っている。
インタビュー/文:伊藤嘉章
前作『Hello! How Are You?』の大ヒット,3度のJUNO賞受賞と,27歳にしてカナダを代表する女性ボーカルの一人となったケイティ・ジョージ。その最新作『Caity Gyorgy with Strings』は彼女の魅力を根底から拡張する作品だ。フル・オーケストラとの共演によるこのアルバムは,これまでのビバップ的な表現とは異なる,“彼女の声そのもの”が感情を深く揺すぶる。今まで聴いたことのないケイティに出会ったともいえる。オーケストラの華麗で贅沢な音と一体化した歌の,その奥にある思いを知りたいと思いお話を伺った。
「オーケストラとの経験は2023年,二度目のJUNO受賞直後でした。マーク・リマカー(p,arr)が小編成オーケストラの作品を提案してくれました。その3曲があまりに素晴らしかったんです。すぐに40人編成のスタジオ・オーケストラによるアルバムを本気で計画し始めました。それから1年半,曲を書き,編曲をし,資金を貯めました。マークは国内外の公演中もずっと編曲に取り組んでましたね。そして綿密に2週間近い録音スケジュールを立て,ついにカナダ中から最高峰の演奏家を集めた録音が実現したんです」40人のオーケストラとの経験は魔法のような時間だったが,自分でも驚くほど自然に取り組めたという。それは作品の方向性が明確だったからだろう。「最も重要だったのは,声とオーケストラのどちらかが出過ぎることなく対等に寄り添い合う“共生”でした」と語る彼女は,歌とオーケストラが溶け合うアメリカン・ソングブックの旋律美や1950~60年代のジャズ・オーケストラ/映画音楽にとても詳しかった。
「好きなのはインストならラス・ガルシア編曲の『バディ・デフランコ&オスカー・ピーターソン・プレイ・ジョージ・ガーシュウィン』,ラルフ・バーンズ編曲の『ザ・センシュアル・サウンド・オブ・ソニー・スティット』,映画『ティファニーで朝食を』のサウンドトラック,ヘンリー・マンシーニの『Mr.ラッキー』。ボーカルならゴードン・ジェンキンス編曲のフランク・シナトラ『君よいずこ?』,ドン・コスタ編曲のイーディ・ゴーメの『ドント・ゴー・トゥ・ストレンジャーズ』,ピート・ルゴロ編曲によるジューン・クリスティの『サムシング・クール』です」と,編曲者名と共にすらすら上がるのが驚きだ。その他にも多くの編曲者が挙がったが,作りたい音が明白にイメージできていたのが分かる。それは編曲と歌のバランスが見事な出来の本作に結実した。

『麗しのケイティ~ウィズ・ストリングス』(spoon)
▼ケイティ,マーク・リマカーのコメントを含む本作のメイキング映像を見る