Portrait of ECM Artists Wolfgang Muthspiel ウォルフガング・ムースピールが奏でる『東京』──“永遠の現在”を最も美しく封じ込める街
- 2025年11月20日
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©Laura Pleifer/ECM Records
オーストリア出身のギタリスト,ウォルフガング・ムースピールが,長年の盟友ブライアン・ブレイド(ds),スコット・コリー(b)とのトリオで新作『東京』を発表した。『Driftwood』(2014),『Angular Blues』(2020)に続く本作は,まるで“トリオ三部作”の完結篇のようだ。2024年に東京で録音されたこのアルバムには,彼特有の繊細で瞑想的な響きと,三人が共有する“流れの中で生まれる自由”が刻まれている。静と動,緊張と安らぎが呼吸するように交錯し,その一音一音が「いま」という瞬間を映し出す。
インタビュー/文:落合真理
オーストリア出身のギタリスト,ウォルフガング・ムースピールが,長年共に歩んできたブライアン・ブレイド(ds),スコット・コリー(b)とのトリオによる最新作『東京』をリリースした。『Driftwood』(2014),『Angular Blues』(2020)に続く本作は,まるで「トリオ三部作」の完結篇のように聴こえる。2024年に東京で録音された本作には,ムースピール特有の繊細で瞑想的な美しさと,三人の音楽家が共有する“流れの中で生まれる自由”が刻まれている。静けさと緊張,そして呼吸するような即興の間合い。その音の一つひとつに宿る「いまこの瞬間」への信頼が,彼の音楽哲学を雄弁に物語っている。ムースピール本人に話を聞いた。
――『Driftwood』や『Angular Blues』に続く『東京』は,まるでトリオ三部作の完結篇のように感じられました。これまでの旅路の集大成としては,どのように捉えていますか。
「正直にいうと,そうした意図は最初からあったわけではありません。ただ,この作品に宿るエネルギーには特別なものを感じています。今はこの音楽を演奏し,その“流れ”の中に身を委ねているところで,未来がどうなるかは音楽が教えてくれると思っています。ブライアンとスコットと演奏できることは本当に祝福のようです。私たちはただ三人で音を出しているのではなく,常に“アンサンブル”として響いている。誰か一人が主導するのではなく,全員が音を作っている。その関係性がとても美しいんです」
――演奏中はどのような感覚で即興しているのでしょうか。
「自由でいられる理由は,彼らと完全に対話できているからです。自分が何をしたいかを予め考える必要はない。彼らが何を奏で,どんな呼吸をしているのかを聴き取りながら,そこに音を置くんです。もし相手のミュージシャンが自分の世界だけに閉じこもると,僕は何を弾けばいいのか分からなくなってしまう。音楽とは“相互依存”の芸術です。すべての音がつながり合い,互いに影響し合う。そういう関係の中でこそ,本当の音楽が生まれるのです」

『東京』(ECM)
▼本作収録