The Shape of Jazz Media to come.



START UP ! WITH NEW ORLEANS ニューオリンズから始めよう

「JAZZ JAPAN」から「Jaz.in」へ。そんなことはジャズの1世紀を超える歴史から見ればほんの小さなトピックに過ぎないが,とにかく新たなジャズ雑誌の扉は開かれた。この創刊号で最初に押さえておきたかったのがジャズ発祥の地,ニューオリンズの歴史と現在の姿だ。この街がジャズの源流を作り,その潮流は世界を飲み込み,現在まで巨大なうねりは脈々と続いている。そう,ジャズにハマった時点で,僕ら一人一人はすでにその渦中にいる。このジャズの持つ底知れないパワーの原点,ここからもう一度ジャズの魅力を探っていこう。新たな旅の始まりとなるスタート地点はここしかない。

文:影山友治

“この街は本当に,本気で「音楽で食っている」”

●現代ニューオリンズのフェス,クラブを見る

現代ニューオリンズのフェス,クラブを見る
【Photo by Takehiko Tokiwa】

アルコールや生牡蠣などのシーフード,香辛料の混ざった独特のガンボ(ニューオーリンズ名物ごった煮スープ)を煮込む匂い,肌を濡らす湿気,ミシシッピー川からの蒸気船の汽笛,“欲望という名”の路面電車の軋む音,あちらこちらのレストランやクラブから漏れ聞こえてくる音楽。
喧騒と猥雑さ,怪しさ,そしてどこか儚さを感じさせる街,それがニューオリンズ。
領主だったスペイン,フランスの文化,南北戦争,そしてプランテーションの黒人奴隷といった様々な時代背景と複雑にからみあった歴史を経て,ニューオリンズでジャズは誕生した。
そういう訳で当然,ニューオリンズといえばジャズ,音楽の街なのだが,この街の魅力は,音楽だけではない。
ホットなケイジャン料理にシーフード,クレイジーな謝肉祭・マルディグラ,クレオール文化,ヴードゥー教,アートにカジノにストリップ,街をそぞろ歩くだけでワクワク感がとまらない。


●現代ニューオリンズ・サウンドのアイコンたち

大滝詠一,細野晴臣をはじめとする日本を代表するミュージシャンもニューオリンズに憧れてきた。それこそ,ポール・マッカートニー,ポール・サイモン,デビッド・パーマー,U2,ダニエル・ラノア,レニー・クラビッツもこの地に憧れレコーディングを行っている。現在も,かの地以外のエリアから,海外から,吸い寄せられるようにニューオリンズに住み着いて活躍するミュージシャンも多い。この吸引力というか魔力は,一度訪れてしまうと,離れたくなくなり,戻ってきてしまうと歌うスタンダード「Do You Know What it means to miss New Orleans?」が物語っている通りの現役だ。
昔から現在に至り,多くの人を魅了するニューオリンズの音楽だが,現代のニューオリンズ・サウンドを日々奏でているミュージシャンをつらつらとここに挙げてみたい。
ファッツ・ドミノからプロフェッサー・ロングヘアとジェイムス・ブッカーが完成させたコロコロと転がるロール・ピアノ・スタイルの系譜で言うと,アラン・トゥーサンとドクター・ジョン(彼は”Keep On!”というサインをくれた)がいるが,残念ながら近年相次いで鬼籍に入ってしまった。しかし,ニューオリンズは層が厚い。


●ジャズ源流を辿る旅〜世界を虜にしたニューオリンズ・サウンド

文:靑野浩史

ジャズ源流を辿る旅〜世界を虜にしたニューオリンズ・サウンド

(ニューオリンズにて初代ジャズ王である)「黒人バディ・ボールデンがジャズの第1声をトランペットで吹いたのが1891年でありまして、、、」(註1)
名口調で語るこの油井正一先生の著書の一節を読むたびに、19世紀末のニューオリンズの街の情景を想い巡らしながら、「はて、バディ・ボールデンは、いったいどんな演奏をしていたんだろう?」などと考える。録音を聴いてみたいが、残念ながら彼の録音は存在しない。ジャズのレコードが初めて録音されるのは遥か後の1917年。しかもそれはニューヨークでの事。失われたおおよそ30年がジャズの歴史に存在する。どこかが欠落しているわけではなく、始まりの記録がないのだ。ジャズの最も原始のスタイルであろう当時のニューオリンズ・ジャズはミステリアスなままだ。