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【8月30日】Duet SHUTARO×KENTO@ヤマハホール 直前特別インタビュー

二人の感性と才能がぶつかり合い,未来に向かう二人のジャズ,音楽の交感
松井秀太郎(tp)・壷阪健登(p) Interview

文・インタビュー:伊藤嘉章

トランペッター・松井秀太郎とピアニスト・壷阪健登のデュオ・コンサートがヤマハホールで行われると知り、これは聴いて見たいと思ったのは自分だけではないだろう。小曽根真と神野三鈴によるプロジェクト“From OZONE till Dawn”から羽ばたき、ジャズの新しい世代のフロントランナーとして目覚ましい活躍をしている二人の初の共演だからだ。

松井は昨年デビューアルバム『STEPS OF THE BLUE』をリリースし、今年1月から全国9か所での「Concert Hall Tour」を成功させ、第36回ミュージック・ペンクラブ音楽賞新人賞を受賞。交響楽団との共演ではショスタコヴィッチの曲でクラシックソリストとしてもデビュー、小曽根真との上海、北京公演、ポップスのアーティストサポートなど、自己ユニットや客演、スタジオワークも多く、ジャズからポップス、クラシックまで幅広い活動を続けている。

一方、壷阪も昨年はソロピアノでのスペインのサン・セバスティアン国際ジャズフェスティバルへの招聘、ヤマハホールでのソロピアノ公演「Departure」、今年に入り東京フィルハーモニー交響楽団と「ラプソディ・イン・ブルー」で共演。そしてソロピアノにてのデビューアルバム『When I Sing』をリリースし、同時に石川紅奈とのユニット「soraya」にて同名の1stアルバムも発表、リリース公演も成功させるなど松井同様に活動は幅広い。

ところが意外にも同じTill Dawnメンバーでこれだけ多彩な活動がありながら本格的な共演の場がなかった。その最初の場となる今回は、ホールという音の輪郭がはっきりと響く場で、デュオという二人の感性と才能がぶつかり合う音が聴けるまたとない機会だ。未来に向かうこの二人のジャズ、音楽の交感の中で、繊細・大胆・自由に変化する音世界、音色、ダイナミクス、メロディを特別な空間で堪能できるに違いない。

8/30(金)にコンサート『Duet SHUTARO × KENTO』を行うヤマハホールでお二人にお話を伺った。

■きっかけ、そしてホールでのコンサート

― このデュオ・コンサートの話はどんな風に?

T(壷阪):ヤマハさんから(松井)秀太郎くんにこちらでの公演のオファーがあった際に、僕とのデュオという提案でお話が進みました。僕もこちらでは去年ソロコンサートもさせていただいたので、とても嬉しかったです。

― 最初にお話聞かれた時は

M(松井):以前からヤマハホールは吹いてみたいホールだったので公演のお話をいただいてとても嬉しかったです。ずっと一緒に演奏してみたかった壷阪さんとのデュオを提案しました。

T:秀太郎くんと一つのコンサートを通して共演するのは初めてですが、本当に素晴らしいトランペッターなので、ずっとご一緒できる機会があればいいなと思っていました。ヤマハホールは僕にとってとても特別な場所です。去年こちらでソロコンサートをするまでは、ホールでの公演経験もほとんどありませんでしたし、フルコン(*フルコンサート・グランドピアノ。普通のグランピアノより奥行きが長い。弦が長くなるため低音の響きが豊かで、響板の面積も広く音量も大きい)のピアノでの演奏にも慣れていませんでした。ご厚意で何度もこちらで、この素晴らしいピアノ(YAMAHA CFX)に触れる中で、楽器や響きに対する沢山の気付きがありました。その経験は、ソロピアノアルバム「When I Sing」を制作する上でも大きな影響になりましたし、その後の、東京フィルハーモニー交響楽団との共演など、今の自分の挑戦にも繋がる大きな機会だったと実感しています。今回またこちらで、しかも尊敬する秀太郎くんとコンサートが出来る事をとてもうれしく思ってます。

― 松井さんは元々クラシックではホールで演奏されていて、かつ昨年からのホールコンサートとホールに対するこだわりもありますね。

M:ここで演奏するのは初めてですが先日少し吹かせて頂き、楽器の鳴りを自分が作らなくても良い響きの素敵なホールだと感じました。ストレートに音を出せばホールが音を作ってくれる、余計な事をしなくて良いっていうのがこのホールの大きな特徴だと思います。

― ホールごとに個性がある

M:全然違いますね。ジャズのグループだと場所によっていろんな調整をしなきゃいけなかったりするのが、デュオという編成はそういう要素が少なくピアノとトランペットって言う編成は自然に音が出せる。それがこのホールの中で音に命が吹き込まれて行くような、自分から出さなくても勝手に出ていく感覚があります。その場で生まれる音楽がより自然な形で生まれる事ができるのかなと思います。

― ジャズクラブでは聴けない

M:ホールと一緒に音を作っていく感じがするので場所によって全然自分が感じるものが違います。空間が鳴ってる感じは特別なものです。ジャズをやるにはそんなに響かなかったり、マイクを使っていく事によってより効果的になる事も多いのでどっちが良いという訳では全然ないんです。トランペットは繊細さも含めた楽器の強さがあり、その楽器を鳴らして届けたいというっていう思いがすごく強くあるのですが、ホールにはそのコアの部分の音がそのままのエネルギーとして飛んでいくような感覚があります。自分の音が鳴ってる大きさ、1音が持つエネルギーみたいなものを感じます。

― 壷阪さんはホールについては

T:ソロピアノは自分一人で完結して、ステージ上で自分の準備してきたものを演奏するだけだとどこかで思っていたのですが、実際ここで即興してみるとその時鳴った音の響きに導かれ自分が思ってもみなかったものが出てくる。それは新しい自分の一面を見るような不思議な体験でした。実際の響きの中で即興して見ないと分からなかったことです。何か1音鳴っただけでもそこには沢山のニュアンスが含まれていることを学び始めています。

M:聴きに来てくれる方も本当に集中して聴ける環境じゃないですか。それは自分の音楽を皆さんが一緒に作っている感覚です。聴いてる人と演奏してる人と言うよりホールはこの空間をみんなで作っている感じが強い気がします。すごく盛り上がるときに歓声を上げるような盛り上がり方じゃないかもしれないけど、お客さんの静かなエネルギーも一緒になって音楽が生まれていく感じがホールの好きな所です。

■デュオの面白さ

― デュオという形式はいかがですか

M:一対一なのが一番大きな特徴だと思います。3人以上だと音楽の流れが予め決まってくる部分もあるんですが一対一だと自分と相手だけなのでお互いを信じていれば2人でどこにでも行くことが出来る。加えてPAを通さないで出来ることも好きな所です。自分のバンドのコンサートでPAを入れる時も基本にナマの音の響きがあって、それをナマの音としてより良いものにするためにPAに助けてもらうのですが、デュオはナマの音だけで出来る編成で、特にピアノとトランペットは完全にナマの音だけでホールが鳴らせる楽器なのですごく好きなフォーマットです。

― クラシックでもデュオもされて

M:学生時代ですけどありました。でも「トランペットとピアノのための」などの曲目でもトランペットがソリストの役割の楽曲が多いと思います。今回のような自分たちの音楽では2人が対等に音楽を作っていく感覚があります。

― 壷阪さんは

T: 歌とのデュオはよくありますが、管楽器とはそんなにはやっていなくて。デュオの面白いところは、2人の間で共有さえできていれば音楽的な自由度がとても高いところです。例えばリズムの揺れにおいても、ここは少したっぷり弾きたい、ここは前のめりで弾きたいと思った時に、その表現を気持ちに任せてダイレクトに演奏しやすい。そういった意味でもすごくやりがいがあります。

― 楽しそうですね(笑)

T: この前のリハーサルも本当に楽しかったです。自分の曲も秀太郎くんの音色や音楽性で演奏されることで、また新鮮に聴こえています。想像を越えて、良い意味で裏切ってくるような響きでした。秀太郎くんの音色のパレットの数が多いのだと感じます。例えば、ニューオリンズのスタイルで吹くのと、クラシカルなアプローチのメロディでは出てくる音色が違う。デュオではそういった意味でもコミュニケーションがとれると思います。

― お二人が反応し交感する

M:より即興的ですよね。ジャズには元々どこにでも行ける要素が多いですけど、デュオはさらにどこに行っていい、どういう風にやってもそっちに進んでいくだけみたいな本当に身を任せられるという音楽なので。
T:また、そのオープンな姿勢で譜面に向き合うと、また新鮮に演奏することができます。僕のバークリー時代の先生でもあるヴァディム・ネセロフスキーの「即興するように作曲し、作曲するように即興する」という言葉が心に残っているのですが、その気持ちで音楽と向き合うと、書かれた譜面と、即興との境目がなく、いきいきと演奏できると思っています。曲をよく知ることで、ソロをしていても自由になれるし、自分でどこに行けばいいのか自然と分かってくるってことだと思います。

― デュオでお好きな盤とかありますか

T:その時参考にしたのはビル・エヴァンス&トニー・ベネット。2枚あるんですが、1枚目が好きかな(『The Tony Bennett/Bill Evans Album』(1975, Fantasy))。それと歌伴ではフレッド・ハーシュとナンシー・キングのジャズスタンダードでのライヴ盤があって。(『Live at Jazz Standard with Fred Hirsch』(2006, Maxjazz))それは良く聴きました。フレッド・ハーシュはノーマ・ウインストンとのも良いですし(『Songs & Lullabies』(2003, Sunny Side))、あとスタン・ゲッツのピープル・タイム(『People Time』Stan Getz with Kenny Barron (2009, Universal/Sunnyside))ですね。アート・ペッパーとジョージ・ケーブルスのとか(『Goin’ Home』(1982, Galaxy)『Tete a Tete』(2008, Galaxy))、チェット・ベーカーとポール・ブレイ(『Diane』Chet Baker and Paul Bley(1985, Steeple Chase))も好きなんです。トランペットとピアノってあんまりないかなあ。

M:マルグリュー・ミラーの(『In Harmony』(Roy Hargrove and Malgrew Miller (2021, Resonance))とか。でもトランペットって、吹き続けるのが難しんです。トランペットにとっては挑戦的なのかもしれません。

■楽器と音楽

― 松井さんはこの間のショスタコヴィッチのようなクラシックとの吹き分けみたいなものはあるのでしょうか

M:ジャズでもクラシックでもこういう音が出したいっていう気持ちを大切に演奏しています。楽器も自分のソロの時も、ポップスを吹く時も、ショスタコをやるときも同じ楽器で同じマウスピースなことが多いんです。なので(クラシック、ジャズというより)ここはこういう音にしたい、みたいなのが一番大きいです。

― 楽器はいつも同じなんですね

M:トランペットを始めた時からヤマハを愛用しています。マウスピースはTR-11c4です。こういう音にはこういう楽器が適してるというような特定の音に特化した素晴らしい楽器もあると思うんですけど、今の楽器は自分が出したいって言うところに行くためにすごく良くて、楽器自体を取り替えてえて音を作るんじゃなく、自分が出したい音を出す、っていうところまでを自分がやって、それを楽器に乗せた時にそういう音が鳴ってくれる感じです。楽器の音色が固定されている訳じゃなくて自分がそう出したい音色を作った時にそれを出してくれる楽器です。自分はいろんな事をしてしまうので楽器に頼ってしまうと楽器を沢山並べなくちゃいけなくなるりますかね。(笑)1本で全て可能にしたいという気持ちでずっとやっていて、そのために楽器の職人の方に微調整の相談に乗って頂いたりして感謝しています。

― 自分の楽器を持ち込めないピアノの場合は(笑)

T:フルコンでのピアノに向き合うようになったのも去年からなので、毎回新しい発見をしながら弾いていますが、CFXは切れ味があって、ジャズのようにリズムを出さなきゃいけない音楽ではとても弾きやすいですし、重厚な響きもあるのでどのようなアプローチでも応えてくれるピアノだと思います。ソロ公演『Departure』のは、そういったダイナミクスや音色、ペダリングといったピアノの持つ大きな可能性を改めて実感する機会でもありました。

― この間の東京芸術劇場での「METROPOLITAN JAZZ」でも5人のピアニストがいろんな音を出しましたよね

T:ピアニスト5人であんなに音が違うんだって思いました。本当に素晴らしい、貴重な機会だったと思います。Till Dawn公演の時もそうですが、小曽根さんのピアノをホールで聴くと、音楽が立体的に聴こえるんですよね。あの日のの演奏もそれを感じていました。再びヤマハホールでCFXを鳴らせることが本当に楽しみです。

■Till Dawn、そしてお互いの事

― Till Dawnはお二人にとってどういうものでしょうか

T:僕らは普段から一緒に演奏しているわけではありませんが、一緒にTill Dawnとして活動していくなかで、音楽をやる上で同じところを見ているように感じるときがあります。それはフィロソフィーを共有してるということなのではないかと。一個一個の機会にどうやって音楽に真摯に向き合って新しい挑戦をし、来て下さったお客さんに届けるのかということを学んでいるんだと思います。だからリハーサルをして初めて音を出しても、そこの気持ちからスタートすることができます。

― 松井さんから見て壷阪さんというプレイヤーは

M:壷阪さんが以前ヤマハホールで行ったソロコンサートを聞いた時に、物語があり世界があることを一番に感じました。とても繊細な表現からものすごく情熱的なところまで、生き物のような音楽に毎回衝撃を受けています。

― 壷阪さんからの松井さんは

T:ステージ上での姿はいつも印象的です。リーダーとして、フロントとして音楽を引っ張っていく覚悟を感じます。それは音にも表れていて感情がストレートに伝わってきますし、トランペットという楽器の持つロマンを感じさせてくれる奏者だと思います。美しく繊細なアプローチ、何かメロディを吹いただけでぐっとつかめるようなアプローチもするし、ジャズのような開いた音色が欲しいときにもすぐいってくれるかっこよさもあります。露出したい感情を楽器を介しながらダイレクトに出していく、そこがステージ上にいる秀太郎くんを魅力的に感じる点かもしれません。

― 壷阪さん自身もそういうアプローチを大事にしている

T:今回ソロの曲を描いてみて痛感したのは、何をしようと考えるんじゃなく、自分の頭の中で何が鳴っていてそれをどう形にしたいんだろうっていう事だったんです。これが聴こえるから、その音をキーボードで探したり、エフェクトをかけたりとか、そのアプローチも面白いのですが、アルバムの制作ではそのイマジネーションをピアノという楽器一台に落としこめようとしました。今回の公演ではソロで作った曲が2人になって、どのように変化していくかも楽しみです。

― 最後にみなさんにメッセージなども

T:この2人のデュオは初めてですが、こうしたまた新しいチャレンジをヒリヒリしながら、本当に楽しんでいます。自分のアルバムリリースライブをやっていないので、今回初めて演奏する曲もありますし、皆様の前で演奏できるのをとても楽しみにしています。

M:当日演奏してみないとどうなるか分からない自由で即興的な音楽を、この客席を含めた素敵な空間で作られる音楽を一緒に体感して頂けたらうれしいなと思います。

公演情報

●日時:2024年8月30日(金)19:00開演 (18:00開場)
●場所:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14)
●出演:松井秀太郎(tp)・壷阪健登(p)
●チケット:全席指定 5,500円
●販売:チケットぴあ http://t.pia.jp/
●問い合わせ:ヤマハ銀座店インフォメーション TEL03-3572-3171 
営業時間11:00−18:30(毎週火曜定休/8月13日(火)~16日(金)夏季休業)