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Milton + esperanza 世代と国境を越えた2人の共演 ミルトン・ナシメントとエスペランサ・スポルディング 魂のハーモニー

ブラジルの巨匠ミルトン・ナシメントと,アメリカの才媛エスペランサ・スポルディング。異なる背景を持つ2人のアーティストが出会い,奇跡の共演作を生み出した。ミルトンはブラジル音楽界のレジェンドで,その音楽はジャズ界にも大きな影響を与える。一方,エスペランサは現代ジャズ界の申し子で,ブラジル音楽に強い憧れを抱く。2023年にリオやNYで録音された本作は,ミルトンの旧曲やエスペランサの新曲,さらにはビートルズやマイケル・ジャクソンのカヴァーも収録。世代や国境を越えた音楽のコラボレーションが,新たな音楽の地平を切り開いている。

文:佐藤英輔

1942年生まれのブラジル人と,1984年生まれの米国人。そんな大きく異なる属性を持つ2人のアーティストの邂逅作を手にすることになろうとは。
ミルトン・ナシメントはブラジル音楽の凄さのしなやか体現王たる,シンガー・ソングライターだ。その生気と温もりを行き来する持ち味はクリード・テイラー/CTIを介して,1969年から米国でも洗練された大人の音楽として紹介された。ウェイン・ショーターの1974年作『ネイティヴ・ダンサー』はミルトンの存在なくてはその慧眼世界は獲得できなかったろう。そうして,ミルトンの存在はジャズ界でもその意味する領域の拡大とともに広く認知されるようになった。別な書き方をすれば,英米ポップの持ち味やジャズの閃きを心得えつつブラジルならではの誉や審美眼を存分に開いた才人と言える。
一方,エスペランサは末広がりな,現ジャズ界にあってもっとも注視すべき存在の1人だ。天女が舞うようなヴォーカルと核心を射抜くベース演奏の相乗は天下無敵。そして,音楽性はといえばジャズであるからこそ様々なジャンルにも手を伸ばし,その先にあるうれしい融解表現を導いていく様は唯一無二だ。初期からその奥にはブラジリアン・ミュージックに対する憧憬が宿っていたのは,多くの人が知ることだろう。そんなエスペランサが初めてミルトンのことを知ったのは,友人が『ネイティヴ・ダンサー』をかけてくれたときだそうで,以後ミルトンは彼女にとって一番の存在になった。今作に合わせてリリースされたレコード会社の資料には,「私が書く曲の 90%はミルトンのことを考えています。彼の歌声を思い浮かべ,彼と一緒に歌うことを想像するの。彼は私の創造力の非常に重要な部分なんです」という彼女のコメントが載せられている。ならば,彼女がミルトンとの共演作を望んでも不思議はない。


※本作のMV(Official Visualizer)を見る

ミルトン+エスペランサ
『ミルトン+エスペランサ』(Concord Jazz)