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Jaz. in Portrait ベッカ・スティーブンス Becca Stevens

エモーショナルかつリリカルに等身大の心情を綴ったベッカ・スティーブンスの最新ソロ・アルバム。
「私にとって楓のイメージは母性的かつ家族的なもので,楓が紙に変わるというアイデアは,この作品を完璧に表現しています。楓や母親がいなくなっても,その本質は音楽や紙を通じて生き続けるのです」

インタビュー/文:落合真理

どこまでも生々しくエモーショナル,それでいて極限までにリリカルなベッカ・スティーブンス,4年ぶりの全編ギター弾き語りによる『メイプル・トゥ・ペイパー』。今作は母親の死,そして娘の誕生を立て続けに体験した彼女の,ここ数年間を映し出す極めてパーソナルな日記的作品である。“楓が紙に変わる”をモチーフに,物事の変容性,アーティストであり母親であることの難しさ,SNS時代に生きるミュージシャンとしての葛藤が,ベッカの圧巻のヴォーカルとともにギター1本で吐露されている。

「この作品は,母を失った悲しみから大きなインスピレーションを受けました。作曲は悲しみを乗り越える手段であり,制作やパフォーマンスを通じて母に近づき,彼女の不在を受け入れる助けとなりました。同時に母親になるという嵐のような冒険も経験し,録音を終えた時には第2子を妊娠していました。なので,アルバムには母性の強い感覚が込められています」

今作では,言葉とメロディーがより深いレベルで呼応し,ヴォーカルとギターだけで紡ぎ出される音像が圧倒的かつ極私的に鳴り響いている。“生と死,相反するように見えて同一のものである”という価値観,“そのどちらも美しい”とベッカは歌っているようにも聴こえる。

「とても美しい視点ですね。自分の中でその言葉を思い浮かべたことはなかったけれど,深く共感します。新しく母親になることと母を失うことのテーマが重なり合い,生と死の間で踊るような感覚が確かにありました。いくつかの曲,特にタイトル曲の<メイプル・トゥ・ペイパー>は,存在に関する問いについて解明しようとしています。どこで一方が終わり,どこで他方が始まるのかという問いです」

変容する価値観について歌う同曲は“万物は繋がっている”という東洋的思想に根差し,ベトナム僧のティク・ナット・ハンの著書に影響を受けているとか。別ユニット・ティレリーで一緒に活動するグレッチェン・パーラトとの興味深いエピソードも飛び出した。

「ティク・ナット・ハンの存在は私たちの中で共鳴し合い,15年前にグレッチェンとマーク(・ジュリアナ)と彼の話を聞いたこともあるんです。グレッチェンと私は結婚式でも彼の言葉を引用したほど。私にとって楓のイメージは母性的かつ家族的なもので,楓が紙に変わるというアイデアは,この作品の内容を完璧に表現しています。楓や母親がいなくなっても,その本質は音楽や紙を通じて生き続けるという考えも気に入っています。そして,シンプルに“楓”と“紙”という言葉が好きなんです」


※本作収録のミュージックビデオを見る

メイプル・トゥ・ペイパー
『メイプル・トゥ・ペイパー』(CORE PORT)