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ジャズ喫茶巡礼「田舎でジャズ喫茶」其の三 ジャズ喫茶蔵人(クラート)(群馬県高崎市)

取材/文:楠瀬克昌

団塊世代が後期高齢者となり,店主の健康問題などでやむなく閉業というジャズ喫茶が増えてきた。しかし店主の血縁者や常連有志によって継続するジャズ喫茶も増えつつある。2019年2月に閉業し,今年1月に再オープンしたジャズ喫茶「蔵人」の場合は,閉業後の出会いから事業継承が成立したケースだ。
いまから60数年前,美大生を目指して東京で高校生活をはじめた根岸蔵人さん(79歳)は目白の画材屋に通っているうちにフランス文学者,詩人の平野威馬雄さんと顔なじみになり,やがて平野さんの親族が経営する美容室に住み込みで働くようになる。平野さんは料理家の平野レミさんの父としても知られるが,この住み込み時代にのちにレミさんの夫となる和田誠さんやその仲間たちと交友が深まり,その影響で根岸さんは新宿のジャズ喫茶「ヴィレッジ・ヴァンガード」や「風月堂」に入り浸る。やがて1971年,26歳のときに根岸さんは高崎に帰って美容室を開き大成功するが,51歳のときに脳出血で倒れ,その後遺症のためにサロンワークから退くことになる。このときに根岸さんの慰めとなったのが39歳のときに買って増築したこの倉賀野の蔵だった。根岸さんはやがて「ジャズだけで生きて行こう」と決心,60歳になった2005年にジャズ喫茶「蔵人」を開いた。
埼玉県上尾市に住む大竹潔さん(41歳)が「蔵人」を知ったのは2022年,高崎市が運営するウェブメディアの飲食店後継者募集記事だった。「電話をしてみると,私に妻と2人の子供がいると知った根岸さんは気を遣ってくださって,店をやるのは現実的ではないと断われました」。その後,大竹さんは履歴書と手紙を根岸さんに送って自分の強い思いを伝える。やがて根岸さんから「ちゃんと話をしようか」と連絡が入り,2023年5月に2人は初めて会う。

蔵人
※明治時代に建てられた蔵を改築した「蔵人」の内観。天井が高く厚い壁によって抜群の音響空間に。北大路魯山人の器や皿、棟方志功の巨大テーブルや版画、江戸時代初期の島原の隠れキリシタンの十字架など、根岸さんの感性で蒐集された古今東西の作品やオブジェがこの「蔵」に納められている。

蔵人
※根岸さんが39歳のときに見つけて購入した蔵。1878年(明治11 年)に建てられたものにほかの場所にあった蔵を解体して増築。2005年にジャズ喫茶として開業。2020年には高崎市の歴史的景観建造物に指定されている。

【機材】
プレーヤー  Technics SP-10MkⅡ
パワーアンプ Mark Levinson ML-3
プリアンプ  Mark Levinson ML-7L
スピーカー  JBL Project K2 S9500

ジャズ喫茶蔵人(クラート)
群馬県高崎市倉賀野町1602-1
営業時間 13:00-20:00(土、日)
休日 月〜金
※25歳以下は割引あり。高校生以下はドリンク500円。リクエスト・レコード持ち込みともに不可。