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CHIHIRO YAMANAKA Carry On 過去から未来へ 山中千尋が奏でる継承のメロディー

山中千尋が全曲新録音によるアルバム『Carry On』を発表した。本作はデビュー作から数えて26作目にあたり,タイトルの「継承」は彼女の録音実績を可算名詞のquarterに例え,次なる一歩を踏み出す意志を示している。またジャズと映画音楽が持つ100年の歴史へ深い敬意を表し,映画音楽の巨匠ヘンリー・マンシーニと,ビバップの先駆者バド・パウエルの楽曲がピックアップされた。今作で山中はアートの本質を追求し,音楽を通じて人々を結びつける調和の力を再確認している。

インタビュー/文:小針俊郎

山中千尋が全曲新録音によるアルバム『Carry On』を発表した。デビュー作から数えて26作目に当たるという。タイトルを端的に訳せば「継承」となるが,これは自らの録音実績数を可算名詞のquarter(1/4)になぞらえ,next quarterへの第一歩を踏み出す意思を表したものだという。「50作までいけるかどうか,わかりませんけどね」と笑顔でこたえてくれたが,実現性如何よりもその気宇の大きさこそ,このピアニストの持ち味なのだと感じた。
そして会話を続けるうちに,彼女の新譜の構想意図にはcentury(100年)という概念が重量感豊かに存在していることが分かってきた。

ジャズもほぼ100年。映画音楽もほぼ100年ですね。現代のアート・フォームの究極の二つのジャンルが生まれて,今それらがクロスしたということで映画音楽の巨匠ヘンリー・マンシーニと,私が尊敬するピアニストのバド・パウエルを選曲の中心に置きました。マンシーニの曲はジャズのスタンダードとして多くとりあげられるし,パウエルはビバップの一つの大きな幹,今のジャズの礎になった。彼らが生まれて今年はちょうど100年です。映像と音楽が交差したことをトリビュートするために制作しました

ヘンリー・マンシーニとバド・パウエル 山中千尋が再構築する映画音楽とジャズ

マンシーニとパウエル。余人にはなかなか考えつけない組み合わせだが,山中には勝算があったのだろう。二人の偉大な先人に対する山中の捉え方を聞いてみた。まずパウエルの分析から。

ジャズを始めたときビバップというものを知ったのが少し遅かったんです,最初はミシェル・ペトルチアーニでした。私はクラシック・ピアノから入ったので,ペトルチアーニは親しみやすかった。その後ジェリ・アレンの『In the Year of the Dragon』(1989年)というアルバムがすごくかっこいいと感じました。そこに “Oblivion”が入っていたのです。それがパウエルの曲だと知ったときに,ある方からパウエルとフィニアス・ニューボーンを聴いてみるように勧められました

多分この経験は桐朋学園大学音楽学部在学中のことではないかと思われるが,具体的にはどのような衝撃をうけたのか。

クラシック・ピアノは磁石でいうと+と-みたいに指が鍵盤に吸い付くように弾くんです。そこへいくとビバップは++同士みたいに,鍵盤と指の間に反発する磁力があって,次の鍵盤に移るときに少し遅れて入る。全部ではありませんが,そのビハインド・ザ・ビートが間を作ることがあるんです。パウエルの初期の作品はきらびやかにクラシック的なテクニックで弾いていて,和音を弾くにも華やかに聴こえるように調律も少しちがうように聞こえました。初期の作品というのはオン・トップというか,それこそクラシックのようなテクニックで弾いています。晩年に近づくにしたがって彼の若き日の特有のフレーズみたいなものがだんだん消えて,歌うようなスタイルに変わっていった,身体もそういう状態になったのかもしれませんが,ジャズ・ミュージシャンとしての彼の才能がむき出しになっていったと思います。テクニックの面では『The Amazing Bud Powell, Volume One』などからのインパクトが大きいのですが,そうしたすべてを含めて最初に影響を受けたのがバド・パウエルということです。バークリー音楽大学に入るときもバド・パウエルをたくさん耳コピーしていたのでそのとおりに弾いたら,君うまいねとほめられました。まったくアドリブができなかったのですが,アビシャイ・コーエン(Tp.)などがいるクラスに入れられて,ビル・ピアースというアート・ブレイキーにいた先生についたのですが,何も弾いていないのに、そのスタイルでいいね,セロニアス・モンクみたいだと言われました

『Carry On』ツアー
10/19 水戸・ザ・ヒロサワ・シティ会館
10/25 宮崎・延岡・延岡総合文化センター野口遵記念館ホール
11/02 金沢・もっきりや
11/03 鈴鹿・どじはうす
11/04 京都・亀岡ジャズフェスティバル 
11/09 東大和市民会館ハミングホール
11/16 静岡市清水文化会館マリナート
11/17 京都・ボンズロザリー
11/24 岐阜・大垣市 日本昭和音楽村
11/30 埼玉・神川町中央公民館ホール
12/07 サッポロシティジャズ“シアタージャズライブ”
12/15 静岡・焼津 大井川文化会館
12/21 名古屋・緑文化小劇場
12/22 群馬・桐生ビレッジ
12/26 東京・コットンクラブ

▼本作を聴く

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『Carry On』 (Blue Note) 限定

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『Carry On』 (Blue Note) 通常盤