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Keith Jarrett The Old Country-More from The Deer Head Inn キース・ジャレット 伝説の一夜に刻まれた新たなドキュメント

1992年,キース・ジャレットによる地元ペンシルバニア州での一夜限りの伝説のライブ音源『アット・ザ・ディア・ヘッド・イン』の続編が30年の時を経て登場する。当夜は,ドラムスにジャック・ディジョネットの代役としてポール・モチアンが加わり,ベーシストのゲイリー・ピーコックとの独自のトリオ演奏が繰り広げられるという,数あるトリオのライブ作品の中でもとりわけ貴重な録音だけにそのインパクトは大きい。

文:稲岡邦彌(JazzTokyo編集長)

キース・ジャレットの新譜『オールド・カントリー〜モア・フロム・ザ・ディア・ヘッド・イン』がリリースされた。ECMが55周年を迎え,ドキュメンタリー映画『サウンド・アンド・サイレンス』が公開され,ヤコブ・ブロなどECMゆかりのアーティストの来日コンサートが企画されるなか,やはりECMを象徴するアーティスト,キース・ジャレットの新譜が欲しい。リハビリ生活を続けるキースに新録は望めないということで白羽の矢が立ったのが1992年9月録音のザ・ディア・ヘッド・インでのトリオ演奏だ。トリオと言ってもいわゆる“スタンダーズ”・トリオではなく,ドラムスがポール・モチアン。キースには,トリオが3組あって,チャーリー・ヘイデン(b) とポール・モチアンのトリオ,ゲイリー・ピーコック(b) とジャック・ディジョネット (ds) とのトリオ,それにこのピーコックとモチアンのトリオである。ディア・ヘッドでの演奏もキースの希望に反してディジョネットが出演を辞退,モチアンがトラ(代役)で入ったという情報がある。この一夜限りの演奏が友情出演の類で,手首を痛めていたディジョネットが大事をとったというのだ。キースは修行時代,地元のローカル・バンドでツアー中,ボストンでピーコックとモチアンを擁したビル・エバンスのトリオを初めて聴き呆気に取られたという。30年後にキースがエバンスの立場に立って演奏した録音が『オールド・カントリー』ということになる奇跡。

The Old Country-More from The Deer Head Inn
『The Old Country-More from The Deer Head Inn』(ECM)

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