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SHUICHIRO ISE PLAYS MILES with Kiichi Futamura~Last Recording 伊勢秀一郎 魂のグルーヴが紡ぐ,永遠の音詩

命を懸けて音楽に向き合い,マイルス・デイビスを愛し,己の美学を追求し続けたトランペッター 伊勢秀一郎。彼の魂の集大成である『プレイズ・マイルス・ウィズ・二村希一 〜ラスト・レコーディング〜』が,生前の彼の意向を完全に受け継ぐ形でリリースされた。病と闘いながらも最後の東北ツアーに挑んだ伊勢の音は,まさに“命の響き”。限界を超えて響かせた〈ダニー・ボーイ〉には,聴く者の心を打つ深いメッセージが込められている。このアルバムは,彼が愛した音楽への永遠の賛歌である。

文:重森洋志

絶妙にシンコペートさせた中音域を,これほど巧妙にグルーヴさせ,歌いあげられる日本人トランペッターを他に知らない。晩年は音数少ない神妙なラインと,奥底に潜む自身の魂と交信するかのような訥々としたサブトーンで歌い上げた。出身の地・東北の自然や心通わす友と触れ合うがごとき “音の詩人”ぶりは見事で,最期まで本拠たるジャズの舞台から身を引くことがなかった。
そんな伊勢秀一郎(tp)は一昨年がんを発症し,抗がん剤治療を受けながら演奏活動を続けることになる。前作『さんさ時雨』もそんな折に実施されたスタジオ録音だった。その後容態が悪化して5月後半からのステージはすべて中止,再入院となりながらも退院し,6月の東北ツアー敢行に的を絞った。しかしツアー2日目を終えると病状は限界に達し,苦渋の決断で旅程を中断して再入院,その後退院は叶わぬままにわずか半月後に息を引き取る。膵臓がん。68歳,7月1日のことだった。しかしそのツアー初日(6/7)の演奏は,死を予期していた本人の希望で録音がなされ,翌日(6/8)の映像用音源からの1曲,同年1月にICレコーダーで収録していた図書館ライヴからの1曲も追加し,『プレイズ・マイルス・ウィズ・二村希一 〜ラスト・レコーディング〜』としてリリースすることになった。生前に伊勢が立ち上げた自主レーベルからの,その遺志を受け継ぐジャズ歌手・佐藤美香による,渾身の大仕事である。

「今年に入り,それまでとは薬を変えて抗がん剤治療を再スタートしたのですが,その副作用からくる激しい倦怠感と痛み,不安との葛藤の中でも『生きたい。トランペットを吹きたい』という強い意志を表明していました」

PLAYS MILES with Kiichi Futamura ~Last Recording
『PLAYS MILES with Kiichi Futamura ~Last Recording』(Jazz and Freedom Records)

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