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RIYOKO TAKAGI THE MOMENTS 高木里代子 溢れるエモーションが刻む永遠の“瞬間(とき)”

高木里代子
※撮影:大村祐里子/協力:スタインウェイ・ジャパン
※衣装協力:
TADASHI SHOJI(ドレス)
アビステ(アクセサリー)
スタイリスト:金城祐美

高木里代子の最新作『The Moments(ザ・モーメンツ)』は,彼女の音楽人生の輝ける瞬間(とき)を惜しみなく収めた意欲作だ。本作では,カプーチンの『Prelude 8 Concert Studies』をオリジナルアレンジで披露し,ジャズの名曲群を日本を代表するリズムセクションとともに熱い演奏で彩る。全12曲の豊かな叙情に溢れるエモーショナルなサウンドは,聴く者を彼女の音世界へと誘い魅了する。2024年を締めくくるにふさわしいアルバムといえよう。

インタビュー/文:小針俊郎
写真:大村祐里子

自分の人生を常にアップデートして生きていきたい

高木里代子の6枚目となるアルバム『The Moments』は12月11日発売というのに,Amazonジャズ・チャートでジャズ,ジャズ・フュージョン,J-Jazzの全てので 早くも第一位を獲得したそうだ。予約が殺到しているのだろう。
私はデビューの頃から彼女に注目し,ピアノの演奏技量に感嘆の念を抱いてきた。常に進化を求め努力する姿もみてきたつもりだ。しかし最新作『The Moments』を聴くに及んで,彼女のピアノにかける情熱と取り組み方はとても私の想像の及ぶ範囲のものではないと知ったのである。果たして彼女はこのアルバムで何を表現したいのだろうか。一聴した印象はこれである。選曲にまず戸惑いを覚えた。二度聴いてもこの混迷は晴れない。三度聴いて,彼女は豊かな感情の持ち主であることを思った。とり繕うことなく,意志のままの自分を吐露している。より露わにいうなら白状しているのだ。取材にあたって,まず個々の曲よりも作品全体を象徴しているであろうタイトルの命名意図を聞いた。

「私は,自分の人生を常にアップデートして生きていきたい。だから今年起きた出来事も,悲しみも喜びも,通ってきた道すべてを自らの音に刻み,昇華して,吐き出して,そうしたらもう次に進みたい。だから今鳴る音は,今の自分しか出せない。そういう意味で,“輝ける今この瞬間”という意味の『The Moments』というタイトルにしたのです」

 
この10年,高木は誤解を恐れずに自分をさらけ出してきた。それはマーケティング的な意味で効果もあっただろう。逆にこの姿勢を非難し忌避する言動もあった。しかし彼女は委細承知のうえで自己を貫き,猛烈な努力でテクニックを向上させ,今日の境地に達したのだ。ではその心境は一見無統一にみえる収録曲にどのように反映されているのか。まず2曲含まれるオリジナル曲から聞いた。

「アルバム一曲目の<Endless Sorrow>は今年悲しいことが一杯あった,その思いから作りました。出会いとか別れとかあって,そういう心の中で人間はどんなに愛し合っても最後には一人じゃないですか。人とのかかわりのなかでどうしても超えられない壁があったり,その絶望ではないけれど悲しみには終わりがない…。そんな思いをもったときにフワッと降りてきたのがこの曲のメロディー。暗闇の中に光を見るというのが私の中のキーワードなんです。<Dream Waltz>は、綺麗なドレスを着て王子様と踊るワルツです。めずらしく乙女な夢を描いたお気に入りの曲です」

このようにちょっぴり感傷的な曲があるかとおもえば,ポスト・バップ曲も含まれる。

「ウェイン・ショーターの<Footprints>とハービー・ハンコックの<Tell Me a Bedtime Story>は自由に飛べる曲として選びました。譜面に縛られないで,ライヴでもアドリブでその日の音世界をひろげられる曲として選んだんです。すっと入りやすい曲で、演奏面でもジャズとして楽しみたいという思いですね」


『The Moments』(Steelpan Records)