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JAZZ SCENE 2024 未来を感じる2024年のジャズ:伝統と革新の融合

2024年のジャズ・シーンは,進化と越境がさらに深化した年であった。チャールス・ロイドの深遠な即興や,アマーロ・フレイタスの斬新な表現が象徴するように,現代ジャズは枠に囚われず自由な形で広がりを見せた。サマラ・ジョイの伝統を引き継ぎつつ現代的なビート感を感じさせる歌唱も然り。国内では渡辺貞夫や小曽根真などベテラン勢の充実した作品が光り,一方で松井秀太郎や壷阪健斗,馬場智章などの若手が躍動,世界中でジャズが再定義されつつあることを実感させてくれた。そんな2024年のジャズ・シーンを岡崎正通氏と村井康司氏に振り返ってもらった。

己のルーツを主張しながらも融合し,新しい世界観を切り開く
その総体として2024年のジャズがある


『The Sky Will Still Be There Tomorrow/Charles Lloyd』(Blue Note)

文:岡崎正通

昨年(2024年)個人的に大きな感銘を受けたものとして,チャールス・ロイドのライブ・ステージやアマーロ・フレイタスの活躍ぶりが真っ先に浮かんでくる。語呂合わせではないが,即興表現の“深化と進化”。86歳のロイドと33歳のアマーロ。即興による自身のプレイを究極まで掘り下げていったロイドに対して,現代ジャズのキーワードでもある“越境”をハイレベルに表現するアマーロ・フレイタス。ふたりの音楽は,あらゆる枠に縛られることなく自由な表現が可能な現代ジャズのありようを象徴しているようにも思える。今日のジャズは世界レベルでの拡散,融合,変質を繰り返しながら,新しい響きを創造し続けてきているが,アマーロ・フレイタスの演奏はそんなジャズの進化形をハイレベルな形で示してみせてくれた。情報化が激しいスピードで進み,世界のどこにいても瞬時に情報をキャッチすることができる今日にあって,新しいジャズ表現の“越境”も加速度的にギアを上げていった2024年。SNSの時代にあっては,新しい才能があっという間に音楽界を席巻して,エスタブリッシュな影響力をもつような現象も多くみられるようになった。

今のジャズは確実に新しい何かを生み出している,
ということを確信できた2024年だった


『Y’Y/Amaro Freitas』(Psychic Hotline/unimusic)

文:村井康司

2024年にリリースされたジャズ・アルバムの中で,個人的に高く評価したものをいくつか挙げてみよう。まずはブラジルのピアニスト,アマーロ・フレイタスの『Y’Y』。ブラジル音楽のアフリカ的な要素に早くから着目し,それをモダン・ジャズの文脈と巧みに接続したサウンドをクリエイトしてきたフレイタスは,この『Y’Y』において,ブラジル先住民の文化を強く意識して,幻想的でスケールの大きい音楽を構築してみせた。イギリス(UK)のサックス奏者,ヌバイア・ガルシアの新作『オデッセイ』にも強く惹かれた。現役のテナー・サックス奏者の中で,音色の美しさという点では屈指の存在と言えるヌバイアだが,このアルバムではストリングス・アレンジに挑戦して,モーダル・ジャズやカリブ的な音楽の「次」へ向かおうとする意欲を見せてくれている。
狭い意味での「ジャズ」にとどまらない,アフリカン・アメリカン・ミュージックの巨匠であるミシェル・ンデゲオチェロは,『ノー・モア・ウォーター:ゴスペル・オブ・ジェイムズ・ボールドウィン』で,アメリカを代表する黒人作家ボールドウィンにオマージュを捧げた。おそろしく気持ちいいベースのグルーヴ感とミシェルの歌の切迫感がただ事ではない。