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50年の時を超え,響き合う魂 ブランフォード・マルサリスが挑む『Belonging』の矜持

ブランフォード・マルサリスが,新たな挑戦としてキース・ジャレット ヨーロピアン・カルテットの名盤『Belonging』に取り組んだ。70年代以降ジャズ・シーンをリードし,ロックやクラシックまで幅広いジャンルを横断してきた彼が,長年のカルテットとともに,この傑作を現代の視点で再解釈する。本作は音楽の奥にある「記憶」と「感情」に触れ,オリジナルの精神を受け継ぎつつ,独自のサウンドを融合させた意欲作だ。ジャズの伝統と革新が交差するこのアルバムについて,本人に話を聞いた。

文/インタビュー:常盤武彦

偉大な音楽への敬意と挑戦——『Belonging』再構築の意義

1980年代からジャズ・シーンをリードしてきた,ブランフォード・マルサリス(ts,ss)。そのキャリアは,ストレート・アヘッド・ジャズから,ロック,ファンク,ヒップホップ,クラシックと多彩であり,名門コロンビア・レコードと,自らのレーベル マルサリス・ミュージックから,多くの素晴らしい作品をリリースしてきた。そのブランフォードが,名門ブルーノート・レコードと契約し,栄えあるロースターに加わる。そして第1作に選んだテーマは,キース・ジャレット(p)が,ヤン・ガルバレク(ts,ss),パレ・ダニエルセン(b),ヨン・クリステンセン(ds)ら北欧ジャズの精鋭と結成したヨーロピアン・カルテットと,1974年にリリースしたデビュー作『Belonging』だ。このアルバムの再構築に,長年演奏を共にしているジョーイ・カルデラッツォ(p),エリック・レビス(b),ジャスティン・フォークナー(ds) とのレギューラー・カルテットと共に挑んだ,驚くべき作品となった。ブランフォードは,1980年代に当時のレギュラー・ピアニストだったケニー・カークランドから,ヨーロピアン・カルテットの『My Song』を聴かせてもらい,衝撃を受け魅了された。2019年の前作『The Secret Between The Shadow and the Soul』で,『Belonging』に収録されたを録音し,確かな手応えを掴む。そしてメンバーのエリック・レビスの提案で,『Belonging』を,全曲プレイすることを決意した。2020年代の視点から,50年前の傑作を検証したブランフォード・マルサリスに訊く。

−−ニュー・アルバム『Belonging』を,聴かせていただきました。キース・ジャレットとヨーロピアン・カルテットの色褪せないクリエイティヴィティに,長年共演しているあなたのカルテットの現代の視点が加わり,素晴らしい作品だと思います。あなたは2015年に,ジョン・コルトレーン(ts,ss)の『至上の愛』のフル・ヴァージョンにも,挑戦しています。あなたにとって,歴史的傑作をプレイする意義と挑戦,その動機について伺えますか? 

「私とカルテットのメンバーは,過去の傑作をプレイすることを単なるカヴァーとは考えていません。ジャズの歴史のほとんどは,他者の楽曲を演奏することを中心に発展してきました。私たちはグループとしての挑戦を愛しており,その最良の方法は,自分たちの音楽に影響を与えてきた,偉大な音楽家たちの作品を演奏することです。もし自分たちのオリジナルのみを演奏し,他者からの影響を受けることを避ければ,やがて全ての楽曲は既存のものと似通ってしまうでしょう。私たちはジャズの学び手であり,決して完成された存在ではないのです」


『ビロンギング』(Blue Note)

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