LISTENING BAR IN NEW YORK RECORD BAR & CAFÉ IN TOKYO ニューヨーク/東京 レコードバー&カフェの誘い
- 2025年03月20日
- PICKUP
巷ではアナログレコードがかかるバーやカフェが人気を集めている。仕事疲れの心と体を優しくほぐしてくれるアナログ盤のハートウォームなサウンドに浸りたくなるのはニューヨーカーも東京人も同じなのだ。ここではNYと東京の隠れ家的レコードバー(NY編ではListening Bar)&カフェを紹介。ニューヨーク編はコルトレーン研究家でNY通の藤岡靖洋氏,東京編はJUDGMENT! RECORDS代表で都内のバー&カフェに精通する塙耕記氏がナビゲート,ほんとは教えたくないシン・名店を案内してもらった。
NY最前線2025:Listening Barのかたち。
看板も何も無い、これがトレンド‼
文/写真:藤岡靖洋
取材協力:Ken Hudes, Hiroko Otani, Hollis King
【NY編】
Public Records
233 Butler St, Brooklyn, NY 11217
https://publicrecords.nyc/
ブルックリンのゴワナス(Gowanus)運河の北端バトラー通り233番地の《パブリック・レコーズ》。
高い天井と巨大なアルテックのマルチ・セルラー・ホーンを配し、2019年にはリカー・ライセンスも取得してアルコールの提供が可能になった所で、一気にブレイクした。
2020年3月20日(日)、ラヴィ・コルトレーンとぼくの2回目のリスニング・パーティ(レコードをかけて解説会)を企画。Universal Music NY支社からも協賛金を得て、120名の予約者もSNSを通じて集まっていたが、コロナで中止となってしまった(涙)。
入り口にはPublic Recordsの頭文字PRをデフォルメしたロゴの看板があるが、店名はガラス戸に透かし文字で書かれているだけで見えにくい。
店内の“カフェ・パブリック”では、コーヒー以外に自家製ペイストリーやビーガン料理も楽しめるし、LP盤や帽子、シャツ、本などの物販がある。“サウンド・ルーム”の四隅に配された巨大なアルテックのマルチ・セルラー・ホーンが低い天井に巨大な音を鳴り響かせる。DJの入ったダンス会などでは、若者が身を寄せ合って、強烈な音圧を楽しんでいる。2階“カクテル・バー”にも巨大なマルチ・セルラー・ホーンが威容を誇る。ここは数年前までヴィンテージ・ギター屋《レトロフレットRetrofret》だったところ。
唯一、我々老人がゆっくり出来るのが1階バーの在る“アトリウム”と“パティオ”。晴れた日のゴワナス運河沿いは実にリラックスできる。しかしこの付近も再開発ラッシュで、近隣には高層マンションが林立。開店前の頃とは隔世の感がある。
●Audio Equipment:Void AcousticsのNexus XLサブ・ウーハーにALTEC 1505Bマルチ・セルラー・ホーンとFaitalスーパー・ツィーターを擁するOjas Quad 15のスロットロード・エンクロージャー。「メイン・ルーム」のアンプはVoid Bias V9, Void Bias Q2、BGW VXi3.3のペアを配したVoid Bias D1アンプとBSS シグナル・プロセッサー。最近「メイン・ルーム」には人間の背丈を優に超えるカスタムメイドのスピーカー(ALTEC系)も置かれ、その威容を誇っている。
(続きは本誌にて。ニューヨーク編では5店のリスニングバーを紹介しています)
※ “サウンド・ルーム”に配された巨大なアルテックのマルチ・セルラー・ホーン
【東京編】
レコードで繋がる東京BAR&CAFÉ散歩
ナビゲート:塙耕記
写真/文:高橋慎一
COFFEE BAR GALLAGE
東京都中野区東中野3-8-5 遠田ビル2F
https://gallage.jp/
※絶妙な広さを持つ「GALLAGE」の店内。カウンターの右側にはテーブル席も8席あり,各テーブルにはスポットライトが当たり読書もできる
1軒目に訪れたのは『JUDGMENT! RECORDS』のほど近くにある東中野『COFFEE BAR GALLAGE』。コーヒーバーとは聞きなれぬ業態だが,同店マスターの塚田健太さんはコーヒー業界ではカリスマ的なバリスタとして知られる人物。雑居ビルの2階でひっそりとオープンする隠れ家的な店内,居心地の良いカウンターに座ると,ネクタイをキリリと締めたダンディなスタイルのマスターが,惚れ惚れする所作でコーヒーを淹れている。
ワイングラスに注がれたスペシャルティコーヒー“GEISHA”を一口飲むと,口内に芳醇なフルーツの香りが広がった。カウンターの両サイドに置かれた銘機JBL 120TIが『コールマン・ホーキンス / ALIVE!』を温かみのあるサウンドで鳴らしている。
「このアルバム,マスターはウチが状態の良いオリジナル盤を仕入れるごとに買い換えてくれて。そんなこだわりの美学に惹かれてか,知的な若いお客さんが集って,レコードを聴きながら毎晩異様な熱気で盛り上がってるんです。『GALLAGE』は,ズバリ“令和版ジャズ喫茶”ですよ」と興奮気味に語る塙さん。その熱気は,ジャズが文学や映画と共に文化の最前線に立っていたジャズ喫茶全盛期の雰囲気と共通するものがあるという。
『GALLAGE』が知的興奮を生み出す場所として機能している理由は,塚田マスターの人生哲学に起因する。大学卒業時に今後の人生を見据え思索の日々を過ごしたマスターは「自分の好きな“コーヒー,ジャズ,映画,書籍”に囲まれているなら,大金はなくともギリギリ生きていければいい」と決意。現在は『GALLAGE』と同時進行でスペシャルティコーヒーの店『Acid Coffee Tokyo』のオーナーとしても活躍し,充実した日々を送っている。
塚田マスターがアナログレコードの魅力に目覚めたのは,意外にも最近のことだ。2022年,同じ東中野に『JUDGMENT! RECORDS』がオープンすると好奇心に駆られて入店し,最初の来店でブルーノート屈指の名盤『キャノンボール・アダレイ / Somethin’ Else』のオリジナル盤を3万円で躊躇することなく購入したそうだ。
「お酒やコーヒーとも共通するのですが,最初に一番良いものを知ると後はラクなんです」と笑顔で語るマスター。当時店内はストリーミングでBGMを鳴らしていたが,瞬く間にマークレビンソンのアンプとJBLのスピーカーが揃い,アナログレコードが聴ける店として進化していった。レコードコレクションはマスターお気に入りのPablo Recordsを中心に,質の良いオリジナル盤のコレクションが着実に増えているそうだ。
「コーヒーもウイスキーも素材の良さが大切。そこがジャズと共通する部分だと思います。このお店ではシリアスなモノをあくまでカジュアルに,高級な本物を街場で出すことにこだわっていきます」
(続きは本誌にて。東京編では4店のレコードバー&カフェを紹介しています)
※マスターの塚田健太さんはバリスタとしてつとに有名な方で,代々木上原で『Acid Coffee Tokyo』というカフェも経営している。上質なワイングラスで嗜む浅煎りのコーヒーは格別