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ECM Then and Now #4 日本が生んだキース・ジャレット・ソロの一大モニュメント「サンベア・コンサート」をSACDで聴く


※ジャパンツアー後の記者会見で 左から稲岡邦彌(筆者),通訳,キース・ジャレット,マンフレート・アイヒャー,菅野沖彦

1976年,日本各地を巡ったキース・ジャレット初の全国ソロ・ツアー。その記録を10枚組レコードとして結実させた『サンベア・コンサート』が,録音から50年を数え,今年80歳を迎えるキースの節目にSACD6枚組として甦る。『ケルン・コンサート』の爆発的成功の直後,日本の熱意に応えて実現した本作は,キースが土地ごとの空気や人間性に深く共鳴し,即興演奏を通じて音楽を「土地の声」として表現した奇跡のドキュメントである。

文:稲岡邦彌

録音から13ヶ月,10枚組の挑戦――『サンベア・コンサート』制作の舞台裏

2026年,キース・ジャレット最大のアルバム『サンベア・コンサート』が録音されて50年になる。リリースされたのは録音の足掛け2年後の1978年だが。今年1月は『ケルン・コンサート』50周年で世界各地が賑わったようだが,『ケルン・コンサート』の場合は,1月に録音されて1年も経たない同年11月にリリースされた。ケルンの会場での不当な扱いは長らくトラウマとなってキースを苦しめたようだが,プロデューサーのマンフレート・アイヒャーはキースの紡ぎ出した音楽に大いなる可能性を見出し,急いで化粧直しを施し世に送り出した。結果は400万とも450万とも言われるセールス記録を残した。『サンベア・コンサート』は正確には録音から13ヶ月後にアルバム化された。8箇所のコンサートから5ヶ所を選択,10枚のレコードに編集,大部のブックレットを付けた。拙著『新版 ECMの真実』にも詳述したが,このソロ・ツアーの企画は日本側からの強烈なブッシュにより実現したもの。もちろん,10枚組セットになるとは夢想だにしなかったが。

 (中略)

キースの日本での初の全国ソロ・ツアーを組んだのは“あいミュージック”の鯉沼利成(故人),録音を担当したのはオーディオ・ラボの菅野沖彦と大塚晋二(共に故人),ブックレットには協力者と2人の日本人の名前が記されているが当時のトリオレコードの筆者と同僚の原田和男である。定価は2万円近かったと記憶するが9千セット以上の予約が入り,番号入りの1万セット限定とした。ミュンヘンからマンフレート・アイヒャーが来日,キースは奥さんのマーゴット(マーゴ)と息子のゲイブリエル(ゲイブ)を帯同,10人近いキャラバンを組み8ヶ所すべてを録音した。キースがファミリーで旅したのはもちろん物見遊山などではなく精神の安寧を維持するためである。アルバムは,京都(11月5日),大阪(11月8日),名古屋(11月12日),東京(11月14日),札幌(11月18日)と公演順に収録されている。


『サンベア・コンサート』(ECM) SACD[SHM仕様]