Jaz.in Portrait 青木弘武Trio
- 2025年04月23日
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※レコーディング時の青木弘武(p),竹内秀雄(b),大江一輝(ds)
演奏していても都度の感情の動きは自然に出るものです。
これを聴き取って,自分も反応する。我々のトリオの形態はこれなんです。
そういう意味でこの三人でやっていると,そういう臨機応変がとてもやりやすいのです。
インタビュー/文:小針俊郎
繊細かつ抜群のジャズ・センスを持つピアニスト青木弘武の音楽をはじめて聴いたのは2009年の秋のことだったと記憶する。来日したベテラン女性シンガー,ジェーン・ハーべイの伴奏を依頼した時だった。伴奏に細かい注文が多かったが青木はこの仕事を見事にこなしてくれた。以来15年以上にわたって彼の演奏を聴いてきたが,上掲の美質はいよいよ磨かれ風格も加わった現在,10年ぶりに新作アルバムを発表した。『A Drop of Hope』がそのタイトルである。命名の由来を彼はこう語る。
「南米の言い伝えに“ハチドリのひとしずく”というお話があります。昔々山にクリキンディという名のハチドリが住んでいました。あるとき山火事が起こり他の動物が一斉に逃げているときにも,彼は小さな嘴に水を含んで火を消そうとしたのです。僕はこのハチドリの言い伝えに打たれて,彼がもたらした一雫が,やがて大河となり大海にいくという希望をテーマに制作しました」
青木の言わんとすることは,人間はどんな小さなことでも,己に与えられた責務を果たすことの重要性だろう。極小の善行の積み重ねが,世界に平和をもたらすかもしれないという希望。この気持ちは非常に具体的に選曲にあらわれている。
「①〈Holy Land〉は戦争と平和,祈り。②〈Sunflower〉は未来へ向かう希望の光。③〈Beija Flor〉は小さな善意が生む最初の波紋。④〈Softly As In A Morning Sunrise〉は夜明けとともに訪れる新たな可能性。私のオリジナルの⑤〈Song for K〉は深い想いが込められた祈りの旋律。⑥〈BIWAKO〉は静寂と広がりの中で響く日本の風景。⑦〈St.Thomas〉は困難を乗り越え軽やかに進む力。⑧〈Moonlight Desert〉は砂漠に降り注ぐ月明りのような幻想的な世界。⑨〈Adagietto Mahler〉は儚さのなかに宿る祈りと願い。ハチドリの寓話に感動した気持ちをこのような選曲と演奏に込めました」
『A Drop of Hope/青木弘武トリオ』(DUCTHOPE)