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寺島靖国×山本浩司 新・ジャズオーディオ武者修行 寺島さんが山本さんに問う “いい音”の本質とは?


※山本浩司さんのオーディオルームにて。愛用する機器はスピーカーがJBL Project K2 S9900,アンプはOCTAVEを使用。 Jubilee Pre(プリアンプ)とMRE 220(パワーアンプ)の組み合わせ。ターンテーブルはLINN KLIMAX LP12にカートリッジはLINN Kandid

日々オーディオに対峙し,飽くなき探究心で音を磨き続ける寺島靖国さんが,オーディオ道のエキスパートに真剣勝負で臨む,オーディオルーム相互訪問企画。「Jaz.in」としての武者修行第1弾に登場いただくのは,ジャズ・リスニングのツボを知り尽くすオーディオ評論の第一人者,山本浩司さん。一見異なるオーディオ観を持つ二人だが,アコリバのケーブル,電源タップを多く使用している点など共通項も多い。果たして寺島さんは山本流のジャズオーディオ術をどのように聴いたのか。

文:寺島靖国
Photo by Shinichi Takahashi

断言させてもらう,普遍的ないい音というのは無い

「ステレオサウンド」というオーディオ誌がある。ハイ・レベルでケーブルやインシュレイターなどを機器としてあまり大事に扱っておらず,私などは近寄りがたい存在だ。
その「ステレオサウンド」の姉妹誌「HiVi」で編集長だった山本浩司さんを本日訪問させていただいた。
緊張していたのだろう。迎えに来て下さった車の中で私はとんでもないことをほざいていた。
「これまで訪問したオーディオ評論家でいい音を聴いたことがありません。僅かの例外を除いて」
投げた石と口から出た言葉は二度と戻らない。こんな格言があったように記憶するが(※),山本さんの心中やいかに。
ジャズ評論家の推す作品でこれまでいいのに出会ったことがない。こう言われたら評論家の誰だってこんちくしょうと思うだろう。
しかし一体,「いい音」とはどういう音なのだろう。私はこのことについて何十年も考え続けてきた。
最近,ようやく結論が出た。
普遍的にいい音というのは無い。断言させてもらう。いい音とは「自分の好きな音」これである。
これまで本当に「いい音」に出会ってないからこういうことを言うのかもしれない。しかし,例えばオーディオ・マニアがよく口にする「バランス」がとれた音がいい音なのかと問われたら私はノウと答える。そんなのは均等的で「つまらない」音なのだ。
ここでライブの話を持ち出すのは反則だが,ライブで,ベースもピアノもドラムも均一的に聞こえるか。ドラムが一番大きく,ピアノやベースは小さい。
私はライブは好きではないが,自分のオーディオからはこういう音を表現したい。
昔から楽器でいえば,ドラムとベースが大好きである。この二つを優先的に出したいのである。
評論家の音はいい音ではない。先ほどの地点に戻ります。
評論家の音は勿論私のような音ではない。求められるのは,まず第一に「バランス」であろう。
そこで山本さんの音。
その前に山本さんのオーディオ信条を挙げていただいた。
①真当な帯域バランス。ただし中域を重視する。上と下が延びて真ん中が薄い音はいけない。
②音色(ネイロ)の忠実性。
③音の闊達さ。音の芯が広く,のびのびしていること。音楽が生々とすること。
④立体感。
一曲目はなんと1964年製のヴァーヴ盤,ジョニー・ホッジス。これには意表を突かれた。もっと新しいので来るかと思った。
しかもレコードである。古めかしくなるんじゃないかの予想を見事に裏切り,新しい音が出現。60年前の録音もオーディオ次第で新しくなるんだ。それを目の前で見せていただいた。オーディオは,すべからく,実地での見聞が大事。読んだり,人からの話では実相はつかめない。そういうアートなのだ。

<お詫びと訂正>
誌面では“Vol.20(7月号)では山本浩司さんが寺島靖国さん自宅オーディオルームを訪問します”と記載しておりますが,諸般の事情によりひと月順延されVol.21(8月号)に掲載することとなりました。ここにお詫びし訂正させていただきます。