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KEITH JARRETT NEW VIENNA 円熟の極地で放つ,新たな光 キース・ジャレット ウィーン・コンサート 2016

孤高のピアニスト,キース・ジャレットの2016年ウィーン公演が,ついにアルバムとして登場。完全即興というスタイルで数々の名演を残してきた彼が,円熟の境地で紡ぐソロピアノの世界。叙情と革新が交錯する全10曲―名曲<虹の彼方に>で静かに締めくくられるその約70分は,音楽という表現の可能性を改めて教えてくれる。ヨーロッパツアーの貴重な一夜が,時を越えて私たちの耳と心を揺さぶる。

文:齊藤聡

1971年に26歳のキース・ジャレットが最初に吹き込んだソロピアノアルバム『フェイシング・ユー』は,自身の作曲にもとづいた演奏集である。ほどなくして,かれは完全即興のコンサートを開始した。前例のない3枚組LP『ソロ・コンサート』,あまりにも有名な『ケルン・コンサート』,日本での5回のコンサートをLP 10枚入りのボックスセットとした『サンベア・コンサート』などで70年代のジャズシーンに衝撃を与えてからも,キースはこのスタイルで演奏を続け,数多くの傑作をものしている。1991年の演奏『ウィーン・コンサート』はそのひとつであり,このアルバムは四半世紀ぶりのウィーン録音のソロピアノアルバムということになる。
これまでにリリースされたソロのうち最後のアルバムは『ミュンヘン2016』であり,文字通り2016年7月16日の演奏である。同じヨーロッパツアーからは7月3日の『ブダペスト・コンサート』,7月6日の『ボルドー・コンサート』が発表されており,さらに7月9日の演奏を収めたこのアルバムがラインナップに加わるというわけだ。もちろんキースのことだからどの演奏もまったく異なっている。なお,キースは2017年にニューヨークのカーネギー・ホールにおいてソロ公演(未リリース)を行った翌年に脳卒中で倒れ,現在もリハビリ中である。
本アルバムには9曲の即興演奏と1曲のスタンダード<虹の彼方に>が収録されている。約70分間のどの瞬間を取ってみても,キースらしい曲想や旋律を感じ取ることができるものだ。また,キースが歩んできた道のりを思い出すきっかけもちりばめられている。


『ウィーン・コンサート2016』(ECM)

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