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ピート・ロス・トリオ来日公演、予測不能なインタープレイの魔力


※ピート・ロス・トリオ。マイク・プラット(b),ピート・ロス(g),ビル・ブルーフォード(ds) Photo:Ryoji Fukumasa

ドイツ出身で長らくイギリスを拠点に活躍するギタリストのピート・ロスが自身のトリオを率いて来日。ベースはピートの盟友マイク・プラット、そしてドラムは2009年から引退していて、2023年にこのピート・ロス・トリオで復帰したビル・ブルーフォード。ということで、初来日を果たしたピートとマイクに東京公演の前に話を聞いた。ふたりとも前日にすしと天ぷらの御膳がとても美味しかったようで(?)終止上機嫌で、私の質問に丁寧に応じていた。

文:石沢功治

──ピート・ロス・トリオの経緯を簡単に聞かせてください。そもそもおふたりのうちどちらが最初にビルと知り合いだったのですか?

ピート:私だよ。通っていた大学にビルが講師で来ていて知り合ったんだ。2001年か2002年頃だね。彼がテックが必要だというのでいろんな生徒に声をかけただけど、なぜかドラムを叩かない僕が選ばれて、アースワークス(Bill Bruford’s Earthworks)のツアーなんかに同行してた。彼はいろんなことを教えてくれたよ。

──それがどうしてトリオでプレイするようになったのですか?

ピート:コロナのパンデミックが落ち着いた頃に突然ビルから「私と一緒にやる気はあるかい?」と電話がかかってきた。「もちろんOKだよ」と答えたら「一緒にやれる良いベーシストはいるかな?」というので、だったらマイクしかいないと声をかけたんだ。ただ、マイクには最初はあえてビルの名前を出さなかった。それでもOKしてくれたので嬉しかったね。
マイク:そう。最終的に「で、誰なの?」と聞いたらビルだと。その頃は奇しくもビルのアルバム『One of a Kind』(1979年)を聴いていて、そのタイミングだったんで驚いたよ。最初はなにも決めずにジャム・セッションのような感じでやり始めたんだ。

──そのセッションを重ねていって、昨年9月からのPete Roth Trio Autumn Tour 2024で本格的な活動がスタートしました。曲はメンバーのオリジナルの他に、ジャズのスタンダード・ナンバーや有名なジャズ・チューンも多く取り入れてます。

マイク:まずビルがそういう曲を叩くというのが驚きだった。
ピート:そうだね。でも私もマイクもビルもスタンダードをそのままプレイするつもりは毛頭なかった。私たちの自由な発想と解釈でかなり変わっている。それは今回のビルボードでのライヴでもわかるよ。3人で演奏する取っ掛かりとしてスタンダードがあったに過ぎないんだ。
マイク:だから同じ曲であっても演奏していくうちに曲がどんどん変化していく。下手すると有名なスタンダード曲でさえお客さんは気づかないとがある(笑)。

──そういったアプローチの核となっているのが、やはりピートの革新的なギター・プレイです。たとえスタンダードでも発想がとても自由です。

ピート:ありがとう。自分においてもいつも新鮮な感覚であり続けたいんだ。

──それにエフェクターも駆使して独特なサウンドを繰り出してます。

ピート:様々なサウンドから得るインスピレーションも大切にしている。それが自分のプレイの幅を広げることにもなるからね。

──このトリオでのアルバムはまだありませんが、今後制作する予定は?

ピート:ビルともアルバムに関して話してはいるんだけれど、さっきも言ったように、ライヴで演奏してどんどん曲が発展していく。そこにはお客さんの反応も大いにある。それをスタジオに入ってレコーディングするのが果たして良いのかどうかということなんだ。逆に作ってしまったがために形ができてしまって、お客さんはアルバムのような演奏を期待してしまうんじゃないかという懸念がね。我々の演奏は同じことは二度起こらないから。
マイク:ビルも言ってるんだが、とにかくその場に来たお客さんが楽しめる音楽をやろうと。ひいては自分たちもアーティスティックでフリーダムがアプローチが保てるしね。

──そういった点においてはほんとうの意味でのジャズ・スピリッツを持ったトリオだと思います。これからライヴを拝見させて頂きますが、とても楽しみです。

ピート&マイク(両者が口を揃えて):期待していてくれ!


※プレイ中のピート・ロス・トリオ Photo:Ryoji Fukumasa

満員に膨れ上がった東京公演の2nd Setは、「Full Circle」と5拍子のブルース「Trio in Five」の3人の共作でスタートすると、3曲目はビルのアイディアだったというドボルザークの「Largo from Symphony #9」がまったく違ったトリオ・サウンドで展開される。以降、チャーリー・パーカーの「Donna Lee」、ウェイン・ショーターの「Fee-Fi-Fo-Fum」、ジョージ・ガーシュウィンの名曲「Summertime」などが斬新なアレンジで次々と繰り広げられていく。3人がそれぞれお互いのプレイを聴きながら、その都度反応してどんどん突き進むインタープレイで観客を魅了。大きな拍手に応えてのアンコールはジョン・ルトレーンのマイナー・ブルース・ナンバー「Mr. P.C.」だったのだが、なんと、一度たりともマイナー・ブルース進行が出て来ないのには思わず舌を巻いてしまった。既存の概念にとらわれなず、常により面白いものを求めて試行錯誤していく……まさにジャズ・インプロヴィーゼションの魔力を体感した素晴らしいステージであった。