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コロナ禍や出産という転換期を経ての再出発―『ポータル』が開いた音と宇宙の交差点


Photo by Yuka Yamaji

雨上がりのしっとりとした空気が漂う6月上旬,ブルーノート東京で,チリ出身のシンガー/ギタリスト,カミラ・メサの来日公演が開催された。6年ぶりの新作『ポータル』を携えてのステージは,観客を音楽と精神世界をつなぐ“門=ポータル”へ誘う夜となった。以前のインタビューでは,パット・メセニーやジミ・ヘンドリックスの影響を語っていたカミラ。その言葉通り,彼女のギタープレイは,リリカルでありながら大胆なコードワークと即興性を兼ね備える。それに南米のフォークローレやビョーク,ジョニ・ミッチェルを思わせるクリアで伸びやかなボーカルが加わり,独自の音楽性を存分に発揮していた。
幕開けは『ポータル』収録曲から「ザ・ナーチャー」。宇宙を思わせる浮遊感や,精神世界と接続するような音の質感は,作品コンセプトの延長線上にあるもの。「アンカヴァード・グラウンド」では,グレッチェン・パーラトとベッカ・スティーブンスが参加したアルバム・バージョンと異なり,ライブではバックボーカルとキーボードを兼ねるアレハンドラ・ウィリアムス・マネリがその役割を担い,立体的なハーモニーを構築。カミラのハイトーンで芯のある歌声と繊細に絡み合い,観客を引き込んだ。ピアノとシンセを操るガディ・レハビ,しなやかな強さを持つドラムを聴かせたオフリ・ネヘミヤの演奏も見事。アルバムで共同プロデュースを務めたシャイ・マエストロの色合いも感じさせるサウンドには,エレクトロニクスとジャズの即興性が融合し,独特の浮遊感とスピリチュアリティが漂っていた。ライブの途中,カミラはこのバンドを「私のスペースシップ」と紹介。南米の古代文化に宇宙的な神秘を感じるように,彼女の音楽もまた,地に足をつけながら遥か遠くを見据えていた。代表曲「パラ・ヴォラール」も組み込まれ,長年のファンには嬉しいサプライズも。アンコールで披露された「オーヴァーグロース」は,ロック色を強く打ち出したエネルギッシュな一曲で,観客もスタンディングオベーションで応えた。
カミラにとって今回の来日は,コロナ禍や出産という転換期を経ての再出発であると同時に,知性と感受性,そして精神性をあわせ持つ彼女の音楽は,変化の時代を生きる私たちに,調和と内なる探求の大切さを優しく示してくれた。この夜,彼女はシンガーでもギタリストでもなく,音と心をつなぐストーリーテラーとして,観客一人ひとりの心の“扉”を開いた。(落合真理)


Personnel カミラ・メサ(g,vo),ガディ・レハビ(p),アレハンドラ・ウィリアムス・マネリ(key, back vo),オフリ・ネへミヤ(ds) Photo by Yuka Yamaji

カミラ・メサ 東京都・南青山「ブルーノート東京」
6月9日(月)

■Setlist
2nd
1. ザ・ナーチャー
2. トランスムタシオン
3. パラ・ヴォラール
4. ハーヴェスティング・アンダー・ザ・ムーン
5. ニエノ・ラ
6. アンカヴァード・グラウンド
7. ウトピア
8. マンドルラ
9. ポータル
EC10. オーヴァーグロース