ジャズ喫茶巡礼「田舎でジャズ喫茶」其の十四 ListeningCafe百(momo)(秋田県由利本荘市)
- 2025年09月08日
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写真/文:楠瀬克昌
店内に足を踏み入れると焚き込まれた香木の香りがほのかに漂っていた。天井からは中東スタイルのランプがいくつも釣り下げられ,ペルシャ風絨毯の上にはアメリカン・クラシック家具の最高峰ドレクセル・ヘリテイジの椅子,窓のそばには李朝の極彩色の箪笥がさりげなく置かれている。そして客席正面の壁の前には大日如来とシーラカンスの大きな銅板レリーフが鎮座し,その両脇にはまるで優雅な守護神の如く,2つのアルテックスピーカーが構えている。
「子供の頃から世界各地への憧れがあって,日本をはじめ,アジア,中東,ヨーロッパ,北米,中南米,南米など,様々な国の人々や文化,そして音楽からインスパイアされた<魔法の世界>をこの空間に表現してみました」とオーナーの吉田聡さん(53歳)。
前回掲載の秋田県角館町のジャズ喫茶「KennyTone」の荒川店主と親しく,<兄弟店>として今年初めにオープンしたが,この店はジャズ・オンリーではなく,ブラジルや第三世界の音楽,そしてクラシック音楽などもかけるという。それは吉田さんがその場にいるお客さんに合わせて自在に変幻する。20代からDJとして活動して多種多様な音源を収集してきた吉田さんの得意とするところだ。
店の裏には吉田さんが経営する工務店があり,ここは吉田さんが「第二のオフィス」として使っていたものだった。しかし,お気に入りのグッズや機材などの置き場所として使っているうちに,いろんな人たちとその楽しみをシェアしたくなり,およそ1年をかけてこの「リスニングルーム」を作り上げた。
店内の数々のアイテムは一見どれもが希少で高価に見えるが,実際には吉田さんが近隣の古道具屋や雑貨屋,そしてハードオフやメルカリなどでコツコツとピックアップしたものだ。ドレクセルの椅子もほとんどは安く入手して丁寧にレストアしたもの。外では不用品として扱われていたものも,吉田さんの魔法によってまるで宝物のように輝き始めるのだ。
小学3年生の誕生日のとき,父からの贈り物は玩具ではなく,カンナやノミなどの大工道具一式だったので吉田さんは落胆して泣いたという。しかしのちに「田舎にはなんにもないとボヤいていても始まらない,自分の遊び場は自分で作るんだ」と目覚めたときに父の本意を悟った。「Listening Cafe 百」は,そんな吉田さんのDIY精神が発露する現在進行形の大人の遊び場なのだ。
※存在感のある大日如来とシーラカンスの銅板レリーフは新潟の「一心」という銘の彫金作家によるもの
【機材】
スピーカー Altec 838A Carmel,スーパーツイーターFostex T925A
ターンテーブル Techinics SL-1200 Mk3
トーンアーム OrtfonRMG-212,カートリッジOrtfon SPU-GTE,OrtfonΩ
パワーアンプ McIntosh MC275
DA コンバーター Rane One(24 bit 48kHZ)
ステレオパラトメリックイコライザーDrawmer 1974
電源トランス CSE TX-1000アイソレーションバランスフォーマー
ListeningCafe百(momo)
秋田県仙北市角館町上菅沢」265-3
秋田県由利本荘市石脇字田頭100
営業時間 金18:30-23:00,土,日13:00-20:00
定休日 月-木 ※日曜は不定休,Instagramで要確認
電話番号(非公開)
※なお,現在発売中のVol.23(10月号)では,もう1件,同じく由利本荘市にあるジャズ喫茶「ロリンズ」を紹介しています。