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Jazz Scene 2023-2024:Domestic 日本ジャズの新時代

国内外で培われた才能が,日本ジャズ界に新たな息吹を吹き込む

パンデミック終焉を迎えた2023年,日本ジャズシーンは新たな活気と創造性に満ち溢れていた。アニメ映画『BLUE GIANT』の大ヒットをはじめ,音楽監督を務めた上原ひろみや石若駿,馬場智章など個々のプロジェクトも活発化。一方,ビッグバンドやラージ・アンサンブルにおいても挾間美帆や川口千里などが大活躍し,女性たちの力強いプレゼンスが感じられた。ジャズの美しい伝統と革新が見事に融合した2023年。音楽評論家・原田和典氏が大豊作の2023年日本ジャズ界を振り返る。

文:原田和典

Jazz Scene 2023-2024:Domestic
映画『BLUE GIANT』の演奏シーンに臨む上原ひろみ(p),石若駿(ds),馬場智章(ts)

21世紀のルネッサンスの到来を,予感させるジャズ・シーン。

「コロナ禍以降,日本のジャズを聴く機会が増えた」という読者は少なくないのではと思う。私もそのひとりだ。なんといっても2020年,あの思い出したくもないパンデミックによって一時的に世界が閉じられてしまったことは大きい。「ああもう,家にいるのも飽きてきた。同じ場所で音源を聴いてばかりいても,どうにも気持ちがすっきりしない。やっぱり現場に出向いて,目の前で音楽が展開されてゆくライブが聴きたい」。そう思うとき,足が向かったのは日本在住,もしくは海外から日本に戻ってきていたミュージシャンの実演であり,彼らがステージで放つ音は,いわば干天の慈雨に等しいものだった。以来,我がジャズ・リスニング・ライフは,音源・ライブ問わず,日本のミュージシャンの表現に耳を傾ける時間がさらに多くなって今に至る。
 そこで「2023年の日本ジャズ界を振り返る」という本稿の主題に入るのだが,どこをどう切り取っても特定のスペースには収まりきらないであろうことは確か。これから述べることは「今,猛烈に充実しているドメスティック・シーン」の,氷山の一角であることを申しあげておく。またメディアの都合上,「ジャズジャパン」や「ジャズイン」のバックナンバーで取り上げられてきた顔ぶれ中心に触れていくことになる。
23年上半期を大いに賑わせたのが,アニメ映画『BLUE GIANT』(原作:石塚真一,監督:立川譲)のヒットだった。主人公の青年・宮本大は世界一のジャズ・プレイヤーを目指して仙台からやってきたサックス奏者。天才肌のピアニストである沢辺雪祈,大の幼なじみで過去の音楽経験はなかったがドラムを始めると驚くほどの成長ぶりを示す玉田俊二と共にユニット“JASS”を結成し…以降,クライマックスに至るまでの展開はぜひDVDやブルーレイでも後追いしていただきたいが,ジャズ好きを興奮させ,大いに納得させたのは,なんといっても実際に音をあてるミュージシャンの人選だった。

Jazz Scene 2023-2024:Domestic
海野雅威(p) Photo by Makoto Ebi 提供:ブルーノート東京


松井秀太郎(tp) Photo by Takuo Sato 提供:ブルーノート東京