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Sax Legend at Home サックス・レジェンド チャールス・ロイドを訪ねて

ジャズ・サクソフォンの巨匠,チャールス・ロイド。レジェンドの自宅にも招かれたことがあり,彼と親交の深いライター峯村涼子氏が,コロナ禍でのジャズフェスティバルや音楽家ロイドの人生哲学を掘り下げる。ロイドの若き日の経験・悟り,そして音楽への使命とは? 常に新しい才能を見いだし,新たな挑戦を求めるロイドの音楽はクリエイティビティに満ち溢れている。86歳の誕生日を迎え,発表された2枚組アルバム『The Sky Will Be There Tomorrow』は自らをアップデートし続けるロイドの魂の記録である。

インタビュー/文:峯村涼子

チャールス・ロイド
チャールス・ロイド(sax)/Photo by Jaro Olejar

“何かを達成したからこれで満足だと思える事は一時もない。自分は過去の経験や,賢者からのアイデアを豊富に持っているが,心はまるで初心者だ”

「いらっしゃい」と手を合わせて迎えてくれたのは,リビングレジェンド,チャールス・ロイド。今年86歳になるジャズ・サクソフォンの巨匠だ。私がインタビューのためサンタバーバラの彼の自宅に訪れたのは,もう14年も昔になる。駆け出しのライターでひどく緊張していたのを,快く迎え入れてくれた。オアシスのようで,一歩入るとまるで違った空気が流れるロイド氏宅,滅多に人を迎え入れることはないそうで,貴重な時間だった。彼にとっても,日本人ライターの訪問は思い出に残っていたようで,今回の取材の為,第66回モントレー・ジャズ・フェスティバルでお会いする事になった時も,「やあ,君達は以前僕の家に来たね,また会えて嬉しいよ」と部屋に迎え入れてくれた。
ジャズフェスティバルは,コロナ禍で様々な規制が敷かれていたのが,漸くもとのように会場に一般客を入れての開催ができるようになった。我々一般の多くが,コロナの中で自分と見つめあう時間を強いられた結果,人生観が変わった,自分にとって何が大切なのか考えた,自分の使命を発見したなどのコメントがよく聞かれる中で,ロイド氏もスピリチャルな発見があったのではないかという期待を込めて,「漸く観客を前にして演奏できるようになりましたね。コロナ禍は,どのように,ロイド氏に影響しましたか?」と質問してみたのだが,ロイド氏は一言,「いやあ,いつもより休む時間があるなあと思ったぐらいで,自分的には,何も変わっていないよ」とあっさりと答えた。拍子抜けしたと同時に,ああ,と納得もした。