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特集 ECMの音宇宙 稲岡邦彌が明かすECMサウンドの秘密

特集 ECMの音宇宙
ECMのオーナー/プロデューサー マンフレート・アイヒャー/Courtesy of ECM

去年(2023年)の4月,拙著『新版 ECMの真実』の刊行イベントでピーター・バラカンと対談した折り,ピーターからECMのリヴァーブについて質問が投げかけられた。僕の答えはこうだった。「あのリヴァーブは教会で聴く音の響き」。ピーターは「それは知らなかった。目からウロコ」と返してきた。海外に出かけると好んで教会を覗く。ミニ・コンサートがあればなおさらだ。そこで耳にするのはリバーヴを伴ったECMの音に近い。欧米人は日曜日には決まってファミリーでミサに出かける。幼少の頃から耳に馴染んだ教会の音に影響されている,と考えてもあながち外れてはいないだろう。
ECMのオーナー/プロデューサー,マンフレート・アイヒャー(1943~)が創業以来心掛けているのは,クラシック・ファンにジャズの即興演奏に耳を向かせること。「ECMの音」に加えて,ソロやデュオ,ドラムレスの編成が多いのはそのためだ。幼少の頃からピアノやヴァイオリンに親しみ,ベルリンの専門学校では理論やコントラバスを専攻,ベルリン・フィルのコントラバス奏者を目指しながらもドロップ・アウト,学生時代かじっていたジャズ=即興演奏への道を選んだ。レーベル設立に当たってはレーベル名に想いを込めた。ECM=Edition of Contemporary Music。同時代に息づく音楽のためのプラットフォーム。だから,ECMを強引にジャズに引き寄せて理解しようとする試みには無理がある。