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ブラッド・メルドー ソロ Brad Mehldau After Bach II & Apres Fauré 新たな表現領域を巡る音楽の旅

©Michael Wilson
©Michael Wilson

2020年代に入っても創造性を継続するピアニスト,ブラッド・メルドーが新たなソロ・ピアノ作品『アフター・バッハII』と『アプレ・フォーレ』を同時リリース。これまでの7作品に続くクラシック音楽の解釈を特徴とし,オリジナル曲やインプロビゼーションを手がける彼の音楽は,コロナ禍のソーシャル・ディスタンスを背景に自己反省と新たな表現を模索するものだ。独自の道を歩み,音楽的境界を拡張し続けるメルドーの新たな挑戦が,これらのアルバムからも感じ取れる。

文:杉田宏樹

2020年代に進んでも旺盛な創作活動を継続しているブラッド・メルドーが,同時に2タイトルをリリースする。『アフター・バッハII』と『アプレ・フォーレ』はいずれもクラシック作品を題材にしたソロ・ピアノであるのが共通点だ。メルドーはこれまでに7タイトルのピアノ・ソロ作を制作しており,2020年代に入って以降は,オリジナル曲を柱とした
『組曲:2020年4月』(2020年)とソングブック作『ユア・マザー・シュッド・ノウ:ブラッド・メルドー・プレイズ・ザ・ビートルズ』(2023年)を発表。他のプロジェクトと比較してソロ・ピアノ作を加速させている印象を抱く。その理由を探れば,世界的に多くのミュージシャンがそうだったのと同様,コロナ禍によるソーシャル・ディスタンスの意識によって自分自身を見つめ直す時間が増えたこと。とりわけピアニストはソーシャル・メディアを利用して,自宅からの独奏を発信した者が少なくなかった。『組曲:2020年4月』の収録曲には〈キーピング・ディスタンス〉〈リメンバリング・ビフォア・オール・ディス〉〈アンサートゥンティ〉といった曲名が並び,アルバム・カバーに記載のセルフ・コメントには,「先月世界中の誰もが経験したことを捉えた,音楽的スナップショットだ。多くの人々にとって初めての,共通する体験と感覚をピアノで描こうとした」と記されている。クラシック音楽の楽曲構成を導入したオルフェウス室内管弦楽団との共演作『Variations On A Melancholy Theme』(2021年)と,プログレッシブ・ロックから創作の示唆を得た『ジェイコブス・ラダー』(2022年)を含め,近年はトリオの作品を発表しておらず,メルドーが常に新たな表現領域の拡張を意識していることがうかがえる。

アフター・バッハII
『アフター・バッハII』(Nonesuch)

アプレ・フォーレ
『アプレ・フォーレ』(Nonesuch)