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BOOK REVIEW:『キース・ジャレットの真実〜ジャズピアノの歴史を変えた即興演奏とその人生』(ウォルフガング・サンドナー著・稲岡邦彌訳 DU BOOKS)

  • 2025年10月22日
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キース・ジャレットの伝記としてはイアン・カーの『キース・ジャレット 人と音楽』(原著出版は1991年)があるが,ドイツ在住のサンドナー(1942年生まれ)による本書は,生い立ちから始めて2014年までのキースの活動を詳細に記述し,音楽的な分析を行ったものだ。加えて翻訳者の稲岡邦彌氏は1970年代初頭からキースと親交がある元ECMレコードの日本での担当者なので,稲岡氏による「ボーナス・トラック」として,2025年5月の80歳を記念するバースデイ・パーティまでが追加されている。音楽学者で音楽編集記者でもあるサンドナーの筆は格調高く,音楽全般と文学を含む芸術についての見識を駆使して,キース・ジャレットというまぎれもない天才音楽家の全貌をくっきりと描いている。ついつい「ソロ演奏とスタンダーズ・トリオのピアニスト」としてのキース像のみがクローズアップされがちだが,本書を読めばそれだけがキースではない,ということを痛感させられるはずだ。アメリカン・ミュージックのルーツとの深い関わり,ルネサンスから現代音楽までのクラシック音楽への精通ぶり,音楽の始原にまで遡るような謎めいた演奏,そしてラグタイムからビ・バップ,フリー・ジャズと,音楽という表現方法のすべてを深く理解しつつ,キースは誰にも真似のできない「キース・ジャレットというジャンル」を開拓したのだ。
私はこの伝記を読んで,今まであまり聴いていなかったキースのクラシック作品を猛然と聴きたくなった。(村井康司)