<全文公開>布施音人トリオの最新作『Thus Have I Heard』美しく繊細な表現が魂を揺さぶる新世代ピアノトリオ
- 2025年10月22日
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※レコーディングメンバー左から高橋陸(b),布施,中村海斗(ds)
インタビュー/文:神野秀雄
(記事はVol.24に掲載)
布施音人のファーストアルバム『Isolated』(2024年)は嬉しい衝撃だった。これほど美しく繊細で魂を揺さぶる20代のピアノトリオが日本に存在する喜び。最新作『Thus Have I Heard』も同じく中村海斗(ds)と高橋陸(b)という最強の2人を従えたピアノトリオで,美しさと完成度で大きな飛躍と深化を魅せた。2020年より共演を重ねてきた3人,並行して中村海斗グループのリズムセクションとしても精力的に活動し,佐々木梨子(as)と加藤一平(g)も参加した『Invisible Diary』も本作と併せて聴きたい名盤だ。
タイトルへの想いを訊くと「“Thus Have I Heard”とは,漢訳仏教経典の冒頭に置かれる“このように私は聞いた”という意味の言葉“如是我聞”の英訳です。仏教経典は釈尊自らが著したものではなく,弟子たちの伝聞となるので冒頭にこう書かれます。凡そ世の中の全ての作品は作り手の見ている世界の表出で,だからこそ何より“その時,聞こえたもの”を大切にしたいという想いを込めました」。 CDには,タイトルや各曲に込めた想いを綴ったエッセイを自身の撮影による風景写真と共に収めた20ページのブックレットも同封される。
「前作に比べ,楽曲同士のつながりをより意識し,曲順も事前に決定した上でレコーディングに臨みました。各楽曲には風景や仏教的観念をテーマにした曲名を付けていることもあり,それぞれが呼び起こす情感は前作以上に濃いものになっていると思います」
中村と高橋については「どんな音楽もポジティヴに捉え,その時に音楽的にふさわしいものを新鮮な気持ちで模索していく姿勢と,それぞれの信じる音楽の独自性とが高い次元で両立している音楽家だと思います。さらに新たな音楽を学んでいく姿勢ももちろん忘れておらず,そんな2人をとても尊敬しています」。また,この音楽的瞬間を捉えたのがStudio Dedéの吉川昭仁だったことも特筆したい。
布施が影響を受けた音楽家を訊くとライル・メイズを挙げ,本作も腑に落ちる。「パット・メセニーで知り,ライル自身の魅力に取り憑かれました。クラシックにも影響を受けたスタイル,グランドピアノの繊細なコントロール,作曲の独自性などに影響を受けました。」東京大学大学院 数理科学研究科出身の布施は,ライルが数学と建築に深い関心を持っていたことにも親近感を持つ。なお在学中は東京大学ジャズ研の他,慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサエティに参加し,山野ビッグバンド・ジャズ・コンテストで優秀ソリスト賞,バンドで最優秀賞を受賞した。
今後の方向性は「一つは特定の進行やグルーヴに囚われないより自由な即興の追求です。横浜『上町63』で先輩方と共演する中でその深さと魅力が少しずつ分かってきました。もう一つは作曲面で、“緻密な作曲と演奏の即興性との両立”が興味の中心ですが,5人以上の大編成でより多層的な楽曲を作編曲して,新たな可能性を探求したいです」。布施音人トリオの進化に期待しながら,布施の大編成での斬新なサウンドと即興の追求から広がる世界観を楽しみにしたい。
●布施音人トリオ ライヴスケジュール
10月27日(月) 柏 Nardis
11月2日(日) 御茶ノ水 NARU
11月3日(月) 石神井公園「森のJAZZ祭」
11月6日(木) 中野 SweetRain
11月25日(火) 渋谷 JZ Brat
12月13日(土) 下丸子 Chez l’ami Noix
『Thus Have I Heard』(OFM)
▼本作のアルバムトレーラーを見る