<全文公開>カッサ・オーバーオール–現代ビートの開拓者が挑むオーバーダブなし一発録りのアコースティック・セッション ジャズとヒップホップを横断する渾身作『CREAM』の舞台裏
- 2025年10月22日
- PICKUP
インタビュー/文:落合真理
(記事はVol.24に掲載)
ジャズとヒップホップ。この2つはアフリカン・ディアスポラにルーツを持つ“兄弟”のような存在だが,両者を真の意味で融合し,“自分の音楽”として確立した例は稀だ。カッサ・オーバーオールの新作『CREAM』は,ヒップホップの正典を,ジャズの精神と手法で根底から作り直す前代未聞の試みといえよう。
カッサはこれまでドラムマシンを駆使し,サンプリングやビートメイキングを積極的に導入してきた。しかし,今作ではオーバーダブも編集も一切なし。一発録りのアコースティック・セッションというジャズ本来の原点を彷彿とさせる手法を踏襲した。
「アコースティックで演奏した時の反応があまりにも良くて,周囲の反応が見たくなり,今回はあえてそうした。師のビリー・ハートは“ドラマーはバンドの指揮者だ”といつも言っていて,プロデューサー的存在でもある。ジャズとヒップホップはアフリカン・リズムのDNAで繋がっているから,私の中では最初から同じ言語だった」
タイトル『CREAM』にはウータン・クランの曲名のようにピリオドがなく,その理由は「意味を固定させず,抽象性を取り上げたかった」から。「オリジナルから最高のエッセンスを引き出し,上澄みをすくい上げるような録音をしたかった」の言葉通り,『CREAM』は8曲のインスト曲で構成され,いずれもヒップホップ史に残る名曲ばかり。ノートリアス・B.I.G.,ドクター・ドレー,アウトキャストといった誰もが知る曲を仲間たちと解体し,再解釈している。先行曲「REBIRTH OF SLICK (COOL LIKE DAT)」は,90年代のヒップホップを象徴するディゲブル・プラネッツの原曲を驚異の15/4拍子で再構築した。
「15/4の変則拍子で始まってセクションごとに拍を飛ばしたり,4/4に戻ったりする。最初はちょっと詰め込みすぎかもと思ったけれど,できた瞬間はめちゃくちゃエキサイティングだった。原曲に忠実にやろうとしたことは一度もない。やりたいのはオリジナルへの愛を示すことだけ」
録音にはカッサと長い歴史を持つ仲間たち,ラシャーン・カーター(b),トモキ・サンダース(ts)やエミリオ・モデスト(sax),ベンジ・アロンセ(conga),マット・ウォン(key)らが集結した。
「エミリオは彼が子供の頃から知っている。ウォレス・ルーニーと一緒に演奏して本当に成長したよ。NYで最初に一緒に演奏したのがラシャーンだったし,彼はジェリ・アレンとも共演している。今作は音楽的にも血縁的にも“繋がり”の中で生まれたんだ」
10月,カッサはブルーノート東京で3日間の公演を行う(※)。しかもアルバムを全曲ノンストップで演奏するという。
「アルバムを通してライブでやったことは一度もない。でも今回は一発録りだから即興でどこまでも広げられる。先入観は持たずにきてほしい。ただ音楽を全身で浴びて,必要なものを得られることを願っているよ」
▼本作収録
『CREAM』(BEAT RECORDS / Warp Records)